「発現」阿部智里著
物語は、大学に通う村岡さつきのところに兄(大樹)の娘のあやねが姿を現すところから始まる。幼いあやねに突然訪ねてきた理由を尋ねると、どうやら兄と義理の姉の間に何かがあったらしい。義理の姉によれば、兄の様子がおかしいという。
さつきの兄は現実には見えないものが見えると訴え、統合失調症かもしれないと内緒で病院に通っていたのだ。
やつれた大樹を見たさつきは、かつて突然狂ったようになって自殺した母親を思い出す。母親の自殺は村岡家にとっては触れたくないタブーな出来事だったのだが、兄がかつての母親のように見えたのだ。
実家に戻ってきた兄と入れ違いに兄の家であやねの面倒を見るようになったさつきは、次第に自分も現実とは思えない恐ろしいものが見えてしまうことに気づき始める……。
2012年「烏に単は似合わない」で松本清張賞を受賞し、以降「八咫烏シリーズ」で累計100万部を突破した人気作家による最新作。平成と昭和の2つの時代に起きた不思議な事件を行き来しながら、兄の混乱をきっかけに主人公のさつきが恐怖の真相を突き止めていく様子を描いている。
(NHK出版 1400円+税)