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野地秩嘉ノンフィクション作家

1957年、東京生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務などを経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュや食、芸術、文化など幅広い分野で執筆。著書に「サービスの達人たち」「サービスの天才たち」『キャンティ物語』「ビートルズを呼んだ男」などがある。「TOKYOオリンピック物語」でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。

<第20回>森繁久弥がこぼした愚痴

公開日: 更新日:

【海峡(1982年・東宝)】

 青函トンネルの掘削をテーマにした大作で、共演は森繁久弥、吉永小百合。監督は黒沢明の弟子だった森谷司郎。森谷は高倉健と「八甲田山」「動乱」で一緒に仕事をしている。

 主人公はトンネル掘削にかかわる国鉄の技術調査員。森繁久弥はトンネル掘りの老職人だ。スペクタクルなシーンが満載の映画だが、これについて、高倉健本人がしゃべったのは次のひとことだけである。

「あれは大変な現場だった。掘ったトンネルから出水するシーンを何度も撮るんだが、スタントマン(吹き替え)なんて使わないんだよ。ハリウッドなら絶対に吹き替えだ。主演は危険なシーンはやらないからね。あのシーンではシゲさん(森繁)が愚痴をこぼしていたんだ。

 なあ、健ちゃん、俺は70(歳)だよ。どうしてこんなに何度もずぶぬれにならなきゃいかんのか。シゲさんが言うのも仕方ない。いつも濡れていたからね」

 その言葉を頭に置いて本作を見ると、出演者の苦労が身に迫ってくる。老俳優がよく持ちこたえたと思えるようなシーンの連続だ。このシーンが見どころなのだけれど、ほんとうによく頑張ったと思ってしまう。作品にもよるだろうが、俳優とはまさに命がけの仕事だ。

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