「戦争は、ひとつの『狂気』からはじまる」鈴木哲夫氏

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「戦争は、ひとつの『狂気』からはじまる」鈴木哲夫氏

「昨年は戦後80年の節目でした。政府の談話にしても10年ごとに区切りをつけてきましたが、次の戦後90年、どれだけの戦争体験者の方々が存命でしょうか。時代も安全保障環境も世界の構図も、大きく変わっている可能性もある。戦後90年はもうないのかもしれない。そう考えたら、80年の大きな節目に、誰もがあの戦争を総括しなければいけないんじゃないか。特にジャーナリストはそれが使命だろうと思ったんです」

 本書は、テレビや活字で活躍する著者が過去の戦争取材をまとめたもの。「ベニヤ板の特攻艇『震洋』」「日の丸のプレッシャーを背負ったテニス選手」「無謀な煙幕作戦」「プロパガンダに利用された〈のらくろ〉」と、収録の4つのストーリーに共通するのはタイトルにもなっている「狂気」だ。戦時下の狂気に包まれた市民らの証言が基になっている。

「おもちゃみたいな兵器や、敵を欺くための焚火作戦。子どもでも思いつかないような、とてもじゃないけど狂っているとしか思えないようなことがまかり通って命が粗末に扱われていく。『一億総玉砕』だと駆り立てられていく。国民ひとりひとりが死ねと言われているようなものなのに。普通の国民が、ある種のポピュリズムに感化され、巻き込まれていくのです。熱狂のような空気に支配された時というのは本当に怖い」

 例えば「震洋」は、特攻艇とは名ばかりの、ベニヤ板で作られた粗末なモーターボートだ。戦況悪化で鉄がないためだが、船体が軽すぎてスピードを出すと浮いてひっくり返ってしまう。敵に突撃する以前に自爆だ。

「この震洋に関しては、終戦後にも出動命令が出て、誤爆で何百人も亡くなっているんです。現物大の模型を見に行ったのですが、『こんなもので命を落とすのか……』とショックでした」

 粗末なことは分かっていても熱狂に押し出されていく体験者の言葉に、胸が詰まる。

 焚火の煙幕作戦は、B29の本土襲来時に火をたいて、煙で視界を遮るというものだ。

「考えてみてください。そんな焚火程度で、空一面を覆えますか? 敵の空襲なら逃げるべきなのに、避難させず、軍部は一般市民に煙幕作戦を命じてやらせていた。実は北九州の市民はこれをすごく後悔しているんです。代わりに原爆が長崎に落とされてしまった、自分たちの焚火のせいで長崎の市民が犠牲になった、と。でも取材してみると、当日、北九州は曇り空で天候が悪かったとか、前日の大空襲による煙が残っていたとかで、煙幕作戦が成功したわけではない、という説もあるんです。それでも、今でも悔やんで自分たちのせいだと思っている。それも一種の狂気ですよね」

 2月8日の衆院選で超タカ派の高市首相率いる自民党が歴史的圧勝をし、嫌中世論など好戦的なムードも漂う今、同じような「狂気」が近づいてきているのではないか、と著者は言う。

「今の日本の政治状況や社会を考えた時に、SNSの影響力が加わることによって、当時のポピュリズムと戦前の空気に似てきている怖さがあると思っています。そんな時期だからこそ、この本を読んで冷静になってほしい。狂気に巻き込まれていった市民の証言を知ってほしい。当時を振り返って、冷静にきちんと検証をすれば、命の尊厳が軽んじられ、狂気に包まれる戦争は絶対にやってはいけない、という結論に達するはずです」 (ブックマン社 1980円)

▽鈴木哲夫(すずき・てつお) ジャーナリスト。1958年、福岡県生まれ。早大法卒。テレビ西日本報道部、フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリー。「シン・防災論」など著書多数。テレビ・ラジオでコメンテーターも務める。


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