「成瀬は都を駆け抜ける」宮島未奈著
「成瀬は都を駆け抜ける」宮島未奈著
出版不況といわれている。特に小説は昔に比べて初版部数も下がっているのは本屋で働いていて実感してるし、平積みで置いて一時はしっかり売れる本もそこまで時間を置かず勢いが止まってしまうところも見た。
そんな昨今で久しぶりに勢いがハチャメチャに良く、今も売れ続けてる小説がある。「成瀬は天下を取りにいく」シリーズだ。滋賀県の女学生、成瀬あかりが思いがけない行動をどんどん起こしていく連作短編集。本屋大賞も受賞し、現在はシリーズ累計200万部。100万部超えるのも聞かないのに、とんでもない数字だ。なぜ、ここまで売れているのか。それはこの成瀬あかりというキャラの主人公力にある。女子だが受け答えは基本「○○だ」と剛健な返しをする竹を割った話し方、M-1グランプリに出たり、びわ湖大津観光大使になってしまう行動力、その真っすぐな生き方に読者は魅了され、元気が出るのだ。
シリーズ3作目、そして最終巻となる本著では滋賀の高校から京都大学に入学を果たした成瀬あかり。破天荒な彼女は「京都を極める」を目標にさまざまな場所に出没する。成瀬と出会った、内気な同級生や資格受験YouTuberはまぶしく芯が通った彼女にひかれていき、また過去作に登場した成瀬に好意を寄せる男子学生や、成瀬の家族も再登場。改めて彼女の魅力を再発見していく。
3部作通していえるのが先にあげた主人公力もそうなのだが、市井の人々の描き方も卓越しているのである。各短編、視点は常に普通の人からの話になっており、その普通加減が我々読者にきちんと寄り添っているからこそ成瀬の主人公力に当てられてワクワクする彼らと同時に読んでいるこちらも元気が湧いてくるのだ。
成瀬の視点の話はシリーズ1作目の最終話だけなので、基本彼女が何を考えているか読者でも分からない。そこも彼女が不思議な人物であり、一瞬神聖な人間にすら思えるポイントなのだろう。
たくさんの人々の心をつかんだこのシリーズ。終わるのはかなり寂しいが、その結末は日々を前向きに生きようと思える爽やかなものだった。とても読みやすいのでまだ読んでない方はシリーズ3作一気読みを推奨する。
(新潮社 1870円)



















