著者のコラム一覧
カモシダせぶん書店員芸人

1988年、神奈川県生まれ。お笑いコンビ「デンドロビーム」(松竹芸能)のメンバー。日本推理作家協会会員。現在、都内の書店でも働く現役の書店員芸人。著書に「探偵はパシられる」など。

「成瀬は都を駆け抜ける」宮島未奈著

公開日: 更新日:

「成瀬は都を駆け抜ける」宮島未奈著

 出版不況といわれている。特に小説は昔に比べて初版部数も下がっているのは本屋で働いていて実感してるし、平積みで置いて一時はしっかり売れる本もそこまで時間を置かず勢いが止まってしまうところも見た。

 そんな昨今で久しぶりに勢いがハチャメチャに良く、今も売れ続けてる小説がある。「成瀬は天下を取りにいく」シリーズだ。滋賀県の女学生、成瀬あかりが思いがけない行動をどんどん起こしていく連作短編集。本屋大賞も受賞し、現在はシリーズ累計200万部。100万部超えるのも聞かないのに、とんでもない数字だ。なぜ、ここまで売れているのか。それはこの成瀬あかりというキャラの主人公力にある。女子だが受け答えは基本「○○だ」と剛健な返しをする竹を割った話し方、M-1グランプリに出たり、びわ湖大津観光大使になってしまう行動力、その真っすぐな生き方に読者は魅了され、元気が出るのだ。

 シリーズ3作目、そして最終巻となる本著では滋賀の高校から京都大学に入学を果たした成瀬あかり。破天荒な彼女は「京都を極める」を目標にさまざまな場所に出没する。成瀬と出会った、内気な同級生や資格受験YouTuberはまぶしく芯が通った彼女にひかれていき、また過去作に登場した成瀬に好意を寄せる男子学生や、成瀬の家族も再登場。改めて彼女の魅力を再発見していく。

 3部作通していえるのが先にあげた主人公力もそうなのだが、市井の人々の描き方も卓越しているのである。各短編、視点は常に普通の人からの話になっており、その普通加減が我々読者にきちんと寄り添っているからこそ成瀬の主人公力に当てられてワクワクする彼らと同時に読んでいるこちらも元気が湧いてくるのだ。

 成瀬の視点の話はシリーズ1作目の最終話だけなので、基本彼女が何を考えているか読者でも分からない。そこも彼女が不思議な人物であり、一瞬神聖な人間にすら思えるポイントなのだろう。

 たくさんの人々の心をつかんだこのシリーズ。終わるのはかなり寂しいが、その結末は日々を前向きに生きようと思える爽やかなものだった。とても読みやすいのでまだ読んでない方はシリーズ3作一気読みを推奨する。

(新潮社 1870円)

【連載】書店員芸人カモシダせぶんの「いい本入ってますよ!」

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    U18高校代表16人の全進路が判明! プロ志望7人、早大&青学だけで計4人、社会人は2人

  2. 2

    中学時代をジャージーで過ごした鈴木奈穂子が、法政大女子高から大学に内部進学してNHK人気アナになるまで

  3. 3

    巨人“37歳大物トリオ”の来季はどうなる?「田中将大は楽天に帰すのでは」の見立てまで

  4. 4

    田中将大が楽天を去った本当の理由…退団から巨人移籍までに俺とした“3度の電話”の中身

  5. 5

    北島三郎(4)「毎日が目標です。後ろへは戻れない」 地元・八王子のイベントで生涯現役宣言

  1. 6

    大関復帰の安青錦、ケガ完治せずも休まぬワケ 「横綱」年内昇進までノンストップで駆け上がる?

  2. 7

    巨人・阿部前監督「9月復帰」情報の真偽…読売グループ内には同情論も、懸案は…?

  3. 8

    WEST.重岡大毅の結婚にファンの怒りと落胆…“祝福されないアイドル”がやらかす「3つの誤算」

  4. 9

    大谷翔平「古巣エンゼルス復帰」の仰天情報! エ軍球団売却とド軍オーナー不祥事が招く急展開

  5. 10

    俳優・山口馬木也さん「藤田まことさんは『飲め、飲め』と息子のようにかわいがってくれた」