著者のコラム一覧
野地秩嘉ノンフィクション作家

1957年、東京生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務などを経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュや食、芸術、文化など幅広い分野で執筆。著書に「サービスの達人たち」「サービスの天才たち」『キャンティ物語』「ビートルズを呼んだ男」などがある。「TOKYOオリンピック物語」でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。

<第16回>「勝新太郎と同じくらい、寝起きが悪いと言われた」

公開日: 更新日:

【無宿 やどなし (1974年・東宝)】

 勝新太郎高倉健が共演した映画である。

 全編、映像が美しい。日本の海、山の美しさを追いかけて撮っている映画だ。勝新太郎が高倉健との映画を熱望し、やっと実現しただけに、勝新は高倉健に恋焦がれているふうに見える。一方、高倉健は勝新の気合を受け止めるのではなく、サラリと受け流している。そして、間にいる梶芽衣子はふたりの間をゆらゆらと揺れ動く。

 よく語られていることではあるが、本作はカルト的な人気を持つフランス映画「冒険者たち」を土台にしたものだ。ただ、テーマの描き方が違っている。「冒険者たち」では主役の3人、アラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラ、ジョアンナ・シムカスが宝探しに熱中する。宝探しの映画である。一方、「無宿」は宝探しをしようということになっているが、勝新、高倉、梶芽衣子の3人は美しい風景のなかをただただ旅をする。

 全編が同じ調子で貫かれているために、どこが見どころだと指摘するのは難しい。本作に出てくる風景も含めて、すべてを眺めているうちに心地よくなってくる映画だ。

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