いま一度見直したい「映画俳優」としての川崎敬三さん
11月は映画俳優にとって鬼門である。昨年11月は高倉健さん、菅原文太さん、この11月は原節子さん、川崎敬三さんの訃報である。
もっとも、川崎さんは7月、原さんは9月にすでに亡くなっていたという。故人の遺志で死去が伏せられていた。はたからでは及びもつかないお2人の強い決意のほどがうかがえる。
「永遠の処女」「伝説の大女優」という活字が躍る原さんの報道は大きかった。映画史に残る大女優だから当然といえば当然だが、川崎さんに関しては映画俳優としての記述があまりに少なく、唖然とさせられた。映画の川崎敬三を知っている人が極端に少なくなったのであろう。
川崎さんは大映時代、若尾文子らの相手役としての存在感がとても大きな俳優だった。気弱で優男。だが、腹にいちもつある女好き。だらしない男の役が絶品だった。
1959年公開の「氾濫」(増村保造監督)という作品がある。川崎さんが演じた出世を望む貧乏化学者の役が凄まじかった。幼馴染みの恋人(叶順子)がいながら、若尾扮するお嬢さんにちょっかいを出す。しかも、出世の頼みの綱だった若尾の父が失脚すると、とたんに手のひらを返す。