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増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。

「男の星座」(全9巻)梶原一騎原作 原田久仁信作画

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「男の星座」(全9巻)梶原一騎原作 原田久仁信作画

 手塚治虫の最高峰が「火の鳥」ならば、梶原一騎の到達点は間違いなくこの作品だ。

 若い読者は知らないだろう。梶原がいかに惨めに消えていったか。「巨人の星」「あしたのジョー」「空手バカ一代」などで一世を風靡し、プロ野球ブームや空手ブームを創出するなど社会を変えるほどの才能と実力を持っていた梶原を、世間は連日叩き、その座から引きずりおろした。

 原因はもちろんあった。暴力事件などを起こし、そもそもが横柄な生活であちこちで禍根を生んでいた。アントニオ猪木をホテルの一室に監禁して警察沙汰になったというニュースを聞いたときは、高校生だった私は愕然とした。漫画家なのに、最強を標榜するレスラーを監禁し、脅迫されたと言わしめた。いかに当時の梶原が力を持っていたかがわかる。あれで猪木のオーラは失われてしまったが、逆に梶原の強さを知らしめた一件だった。

 転落が始まってからの梶原を見ているのが私はつらかった。作品はすべて絶版にされ、どの漫画雑誌も使ってくれなくなった。ストレスもあったのだろう、劇症肝炎を発症して死にかけ、以前の強気は消えていた。枯れ木のように痩せ、こけた頬にヤギのような白いひげ。作品のファンの私から見ても「もうだめだろう」と絶望せざるを得なかった。

 しかし社会的に抹殺されても肉体が滅びても、彼の才能は枯渇していなかった。干されてどこも受けてくれなかった遺書としての自伝漫画「男の星座」を漫画ゴラクが侠気で引き受けた。

 作画は「プロレススーパースター列伝」で組んだ、これも侠気の原田久仁信。

「この作画を受けたら今後いっさい漫画家の仕事がなくなるのは覚悟していた」

 後に私に語ってくれた。

 結果、連載中に倒れ、これを未完の絶筆として梶原は逝く。そして「男の星座」は自身最高傑作として夜空の星になった。

 私は2013年から原田先生と組んで「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」を「男の星座」の続編として週刊大衆で連載した。何しろ「男の星座」の冒頭は木村政彦 VS. 力道山なのだ。私が完結せずに誰が書き継げるのか。その原田先生もこの5月、心筋梗塞で急逝して星座となった。残された私は長らく医者に止められていた酒を独りで一晩飲み明かした。

(日本文芸社 品切れ重版未定<kindle版 ゴマブックス 545円>)

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