湯島「岩手屋」でホヤをつまみに喜寿超えのマダム2人と日本酒談議
盛岡でひとつやり残したことがあった。
それは名物のホヤを食わなかったこと。東京でホヤを食わせる店は少ない。ヘタすると、とんでもなくまずいものに出くわしかねない。さて、どうしたものかと悩んでいたところ、そうだ! 「岩手屋」があったではないか。ということで湯島へ走った還暦男であります。
上野からだと、岩手屋に着くまで誘惑が多すぎる。意志薄弱なアタシは目的を忘れて寄り道しかねない。そんなわけで御徒町から前だけを見て春日通りを突き進み、岩手屋を目指した。
とにかく春日通りと不忍通りの間には垂涎モノの昭和酒場がズラリと並んでいる。ネオンがともるころはサラリーマン諸氏から地元の先輩方まで多くの酔客で賑わい、夜が更けるにつれて仲町通り周辺の怪しい店が目を覚ます。
が、怪しい店は今のアタシには不要である。ひたすら岩手屋を目指すのみ。春日通りから路地を左に入ると、岩手屋と書かれた赤提灯が目に入る。店の前には酔仙の化粧樽が2つ重ねて鎮座しており、その脇のシブい縄のれんをくぐる。店内はL字のカウンターと左側に4人掛けテーブルが3脚。
「どこでもどうぞ」
3代目店主の内村さんが声をかけてくれた。アタシはカウンターの角に陣取る。磨き抜かれた白木の分厚いカウンターは幅が広くゆったりできる。いい店だなぁ。しばし放心。4時の開店から少し遅れて入ると、すでに奥のテーブルには背広姿の先輩が3人。手前には湯島散策後のリタイア組らしきベテラン4人が瓶ビールをつぎ合っている。