芝翫は主役でも影薄く…今も“スター主義”健在の歌舞伎界
11月は珍しく、歌舞伎座、国立劇場とも10月の「続き」である。歌舞伎座の中村芝翫襲名披露公演は出演者と演目を変えて2カ月目。昼の部は芝翫と息子3人で「連獅子」、夜の部は「盛綱陣屋」の盛綱を芝翫が初役で演じている。
しかし口上で染五郎が「襲名する方々よりも多い5演目に出ております」と自分で言って笑わせていたように、全体に幸四郎・染五郎父子の印象が強い。常に主役であるこの父子は、少ししか出番がない役でも強烈な印象を与え、いままで歌舞伎座ではめったに主役を演じていない芝翫は、主役なのに影が薄くなる。「スター」というものは少年時代からスターとして扱わないと育たないものだ。
国立劇場は「仮名手本忠臣蔵」完全通し上演の2カ月目。お軽と勘平の話の五、六段目を菊之助と菊五郎で、一力茶屋の場の七段目は吉右衛門の由良之助と、スター俳優が得意中の得意とする役を演じるためか、いつになく満席で理想的興行。
東京を離れて福岡の博多座では、生まれついてのスターである海老蔵が新作「石川五右衛門」を上演している。テレビ東京で放映中のドラマとも連動している作品だが、視聴率は苦戦しているようだ。大河ドラマ「武蔵 MUSASHI」(03年)も視聴率は低かった。海老蔵はテレビのフレームには収まらない迫力が魅力の役者。しかし、テレビで舞台のようにやれば浮いてしまうし、おとなしくやったのではその魅力が出ない。難しいところだ。