著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。2012年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。現在、名古屋芸術大学客員教授として文学や漫画理論の講義を担当。

「俺の空」(全9巻 続編あり)本宮ひろ志作

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「俺の空」(全9巻 続編あり)本宮ひろ志作

 日本最大の財閥の息子・安田一平の成長物語だが、実際には世界中の美女とセックスを経験して大人になっていくセックス物語である。

 物語を前へ進めていく推進力は1年間かけて旅をしての妻探し。

 一族代々の掟は「将来財閥を継ぐ者は1年間旅に出て自分にふさわしい伴侶を探す」というものなのだ。

 しかも読者の男の子たちにとっては夢の設定だ。主人公は何でもできるのである。ドラえもんがいなくても、ひとりで何でもこなすスーパーマンだ。

 ビジュアル抜群の高校生でもともと女にもてる。そして勉強もせずに後に東大にも合格する頭脳がある。スポーツも万能で剣道部を全国優勝に導く。不良共を平伏させる胆力も持つ。

 もちろん財閥の息子なのでいざとなれば金は湯水のごとく使え、一声で日本中の政財官界が平伏する影響力を持つ。そんななかで「いい女だ」と思えば次々と狙ってセックスをしながらの世界行脚だ。

 つまり財力もビジュアルも腕力も何でも持つ青年のやりたい放題なのである。

 当然のことながら、受験戦争がもっとも激しい昭和の後期、私たちもてない男子たちはこの漫画に熱狂した。

 あの時代の男子には今の子たちには理解できない夢があった。女の子の裸だ。抱きたい以前に見たことすらなかったのである。

 インターネットなんてもちろんないし、雑誌のグラビアに女性の陰毛が一本写っていただけで書店から回収という大騒ぎになる時代だった。

 私自身、女の子のおっぱいはバスケットボールくらい硬いものだと思っていて、大学生になって初めて触ったとき「うわっ」とその柔らかさに仰天した覚えがある。それくらい何も知らなかった。

 そんな時代に高校生が日本中の美女と次々に恋をして抱いていく。さらに世界の美女たちから「結婚してください」と逆求婚される。当時の男子の夢をかなえてくれるスーパー夢漫画だったのは間違いない。

 これは男の子版の水戸黄門だ。どこへ行っても最後は必ず思い通りに事を運び、女を物す。

 こんな金持ちの息子に生まれたかった。こんな格好いい男に生まれたかった。そんな夢をページをめくればかなえられる夢の漫画だった。

(集英社 品切れ重版未定 Kindle版 660円)

【連載】名作マンガ 白熱講義

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