(25)父はひとりで死んでいた…つながらない電話に胸騒ぎ

公開日: 更新日:

 その年は寒い冬だった。コロナ禍ではあったが、私は母の要介護度の通知が届いたら、年末年始に帰省して母が実家に戻ってくる算段をつけようと考えていた。その準備を始めれば、何カ月経っても母が退院してこないことに苛立ち、怒ってばかりいる父も納得するだろう。私だって、この一家の一大事に、いつまでも父親と対立していたいわけではなかった。

 母が認知症であること、これまであちこちのクリニックでもらった薬のいくつかが母の症状を悪化させていたこと、いま病院ではその投薬を調整していること、そして母はもう以前のままの母ではなく、自力での生活は難しいこと──そうした事実を何度説明しても、父は受け入れようとしなかった。

 しかし今になって振り返れば、父もまた、少し認知機能が低下していたのではないかと思う。いつもニコニコと優しかった父が、短気で怒ってばかりの、話の通じにくい人になってしまっていた。そうなった理由は、他に思い当たらない。

 結局、年末までに母の要介護度を知らせる封書は届かなかった。私は気がかりなまま、お正月も父に電話をかけなかった。言い合いになるのがわかっていたからだ。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “お荷物”佐々木朗希のマイナー落ちはド軍にとっても“好都合”の理由とは?

  2. 2

    国分太一が社長「TOKIO-BA」に和牛巨額詐欺事件の跡地疑惑…東京ドーム2個分で廃墟化危機

  3. 3

    「地球を救う前に社員を救ってくれ!」日テレ「24時間テレビ」が大ピンチ…メインスポンサー日産が大赤字

  4. 4

    仰天! 参院選兵庫選挙区の国民民主党候補は、県知事選で「斎藤元彦陣営ボランティア」だった

  5. 5

    たつき諒氏“7月5日大災害説”を「滅亡したんだっけ」とイジる古市憲寿氏に辛辣な声が浴びせられる理由

  1. 6

    参政党・神谷代表は早くも“ヒトラー思想”丸出し 参院選第一声で「高齢女性は子どもが産めない」

  2. 7

    兵庫は参院選でまた大混乱! 泉房穂氏が強いられる“ステルス戦”の背景にN党・立花氏らによる執拗な嫌がらせ

  3. 8

    「国宝級イケメン」のレッテルを国宝級演技で払拭 吉沢亮はストイックな芝居バカ

  4. 9

    ドジャース佐々木朗希 球団内で「不純物認定」は時間の問題?

  5. 10

    近年の夏は地獄…ベテランプロキャディーが教える“酷暑ゴルフ”の完全対策