「町の本屋はいかにしてつぶれてきたか」飯田一史氏

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「町の本屋はいかにしてつぶれてきたか」飯田一史著

「町の本屋が減っている」と近年よく報じられる。町の本屋とは、地元資本の本屋のこと。実際、全国の書店数は1万417軒(2024年)で、10年前より4241軒減った。地方のみならず、都心でもだ。「日本の紙の出版市場は1996年をピークに下降の一途をたどっている。読書離れ、新古書店やネット書店、電子書籍、スマホ利用の増加が理由」といった文脈で伝わっているが──。

「紙の本の売り上げが90年代後半から減ったのは確かですが、実は86年の日書連(日本書店商業組合連合会)の調査で全国約1万3000店のうち利益が出ていたのは3割未満。80年代後半から、町の本屋は年間1000軒規模でつぶれていました。それどころか、平均的な中小書店は60年代後半にすでに赤字だったことも判明しました。粗利が22%。そこから人件費や家賃などもろもろの経費を引くと、利益率がなんと0.04%というデータもあります」

 こうした目を覆うばかりの惨状を呈する、そもそもの出版業界の構造を解き、戦後の新刊書店の移り変わりを明らかにしたのが本書である。

 戦中に政府が取次(本の仲介卸売業者)を統合し、雑誌・書籍合わせて1社流通とし、戦後に〈出版社-取次-書店〉の取引関係が確立されたのが発端だ。仕入れの主導権を取次が持ち、多くの書店で、取次がどの本を何冊送るかを決める「見計らい配本」が委託形式で行われるようになったのだ。さらに、1953年の独禁法改正で「再販制度」が成立。本の定価は出版社が決定することが合法化され、書店が定価販売を強いられるようになった。

「例えば食料品店では、商品が入荷しづらくなれば売価を上げ、人権費などが上がれば、その分を売価に上乗せして利益を確保しますよね。ところが、新刊書店ではそれができないわけです。出版業界は再販制度を『文化を守るため』と擁護。取次と書店は『本の値段を上げてもらわないと商売が成り立たない』と訴えてきたのに、80年代に公正取引委員会が『安易な値上げを行うな』と示したため、出版社が雑誌、文庫、新書を中心とする低価格路線に走った。書店は、送品・返品の部数が爆増し、運送費がかさむ一方で、客単価が上がらず疲弊することになってしまいました」

 多くの中小書店が、どこも似たような品ぞろえから「金太郎飴書店」と揶揄されてきたのは承知のとおり。書店が、回転率が低い多種多様な書籍をじっくり売りたくても売れるビジネスモデルではなかったと著者は言う。

 ほかにも、地方書店で70年代前半まで売り上げの3割を占めていた外商、80年代に増えて2010年代に衰退する郊外型複合書店、Amazonの日本進出から3年で勝負が決したネット書店のことや紙の本の市場が崩れていない欧米の例まで、本好きにはぜひ知ってほしい書店業界の現状が綿密に記されている。

「書きながら、母校・青森高校の前にあった書店『かねさん』を何度も思い出しました。皆さんもきっと覚えている“町の本屋がある風景”を思い出しながら読んでほしいです」 (平凡社 1320円)

▽飯田一史(いいだ・いちし) 1982年青森県生まれ。中央大学卒。グロービス経営大学院経営専攻修了(MBA)。出版社勤務を経て独立。ウェブカルチャー、出版産業、子どもの本、マンガ等について執筆。「いま、子どもの本が売れる理由」「『若者の読書離れ』というウソ」など著書多数。

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