貯金崩して映画製作 50代サラリーマン山本一郎監督の決意
50代のサラリーマンが長編監督デビューだ。14日から公開となる映画「あのひと」。勤続20年のリフレッシュ休暇と貯金500万円を費やして映画製作に挑んだ監督・山本一郎氏(52)の心を突き動かしたものとは。
■心の片隅に眠っていた願望
映画配給会社「松竹」の社員で、2011年までの十数年間、映画の製作現場にいた。現在はメディア事業部に在籍。合作映画や35ミリフィルムのデジタル化などのサポート業務を行っているという。
「以前の部署にいたら自ら映画を作ることはなかったでしょうね。現場から離れたことが、自主映画の製作に踏み切るきっかけになりました。会社に属している以上、異動はつきものだし、年下の上司につくことだってある。環境の変化が心の片隅に眠っていた願望を突き動かしたのだと思います」
映画「あのひと」は文豪織田作之助(享年33)が書いたといわれる未発表作に独自の解釈を加えた作品だ。人知れず作家不詳として所蔵されていた同名の脚本が大阪府立中之島図書館で見つかったのは4年ほど前。専門家により“オダサク作品”に認定されたという記事を読んで興味が湧き、会社に映画化の企画を提案するも撃沈……。
「懇意にしていただいていた元役員から“おまえは人望がない”と叱責されたことがあります。企画が通らなかった理由のひとつかも(苦笑い)」
悶々としていたときに訪れたリフレッシュ休暇の取得。夏季休暇と合わせて2週間あれば1本撮れるかもという計算と、入社以来月額2万円で続けてきた財形貯蓄の残高が頭に浮かんだ。
「定年まで勤め上げたあとはそれが生活費になるわけで、できれば手はつけたくなかった。私は家庭を持っておらず、浪費家でもない。だから財形には手をつけず、代わりに“へそくり”を銀行から下ろしました」