著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。2012年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。現在、名古屋芸術大学客員教授として文学や漫画理論の講義を担当。

「ドラゴンボール」(全42巻)鳥山明作

公開日: 更新日:

「ドラゴンボール」(全42巻)鳥山明作

 この漫画を語らずして漫画は語れない。「ドラゴンボール」である。

 天才鳥山明の最高傑作であり、漫画史のみならずハリウッド映画など世界のあらゆる創作物語に影響を与えた。

 評論家たちに言わせれば鳥山明は軽快さを売りにする漫画家だ。しかしクリエーションする側の私たちプロから見ればそれは大間違いである。一見、確かに軽快そうなストーリーとキャラ造形に見える。しかしプロの目で繰り返し読み込むと実はトルクフルで馬力に満ちた作品なのである。このトルクと馬力こそがこの作品の凄みであり、鳥山明の凄みだ。

 ごく簡単な主人公の成長物語に見える。目的のために次々と目の前に現れる敵を倒し、主人公が大人になっていく。日本の古くからの昔話でも海外の童話でも幾らでも構造的原点を求めることができる。そもそも《孫悟空》なのだ。西遊記そのものをベースにしている。しかし連載が進むうちに蛇行を重ね、ぶっ飛んだ作品となった。

 小説家としてデビューする前、私にもよくわからなかった。デビュー後に繰り返し再読、再々読するうちに理解したのである。実はあの作品、プロとしてよく読むと“継ぎはぎ”だらけなのだ。プロになってから人の紡いだ作品でも制作途中でどこで何をしようとしたのか、どこで物語を曲げたのか、どこで継ぎ足したのか、見えるようになった。

「俺はそれくらい能力の高い作家なのだ」と自慢しているわけではない。商業レベルで日々真剣勝負で競っているプロなら誰でもわかること。読者にわからぬよう継ぎ目を隠してもプロにはわかる。中古車業者には車の傷を直した跡が見えるのと同じだ。コンパウンドででこぼこを埋め、細かいヤスリをかけて塗装し直しても微妙な光の反射具合で見えてしまう。

 あの「ドラゴンボール」は連載のかなり早い段階で決着をつけ、終えるつもりだった。それがあまりの人気に編集部が延長願いを繰り返し、あのような大長編になってしまった。

 ほかの漫画家なら何度も破綻していたであろう大改造を繰り返してなお、ストーリーもキャラもみじんも揺るがなかった。鳥山明がいかにトルクの太い馬力を持っていたかわかる。まさに漫画の化け物だったのだ。それを証明したのが「ドラゴンボール」だった。

(集英社 484円)

【連載】名作マンガ 白熱講義

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  2. 2

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か

  5. 5

    周囲にバカにされても…アンガールズ山根が無理にテレビに出たがらない理由

  1. 6

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  2. 7

    三山凌輝に「1億円結婚詐欺」疑惑…SKY-HIの対応は? お手本は「純烈」メンバーの不祥事案件

  3. 8

    永野芽郁“二股不倫”疑惑「母親」を理由に苦しい釈明…田中圭とベッタリ写真で清純派路線に限界

  4. 9

    佐藤健と「私の夫と結婚して」W主演で小芝風花を心配するSNS…永野芽郁のW不倫騒動で“共演者キラー”ぶり再注目

  5. 10

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意