「ドラゴンボール」(全42巻)鳥山明作
「ドラゴンボール」(全42巻)鳥山明作
この漫画を語らずして漫画は語れない。「ドラゴンボール」である。
天才鳥山明の最高傑作であり、漫画史のみならずハリウッド映画など世界のあらゆる創作物語に影響を与えた。
評論家たちに言わせれば鳥山明は軽快さを売りにする漫画家だ。しかしクリエーションする側の私たちプロから見ればそれは大間違いである。一見、確かに軽快そうなストーリーとキャラ造形に見える。しかしプロの目で繰り返し読み込むと実はトルクフルで馬力に満ちた作品なのである。このトルクと馬力こそがこの作品の凄みであり、鳥山明の凄みだ。
ごく簡単な主人公の成長物語に見える。目的のために次々と目の前に現れる敵を倒し、主人公が大人になっていく。日本の古くからの昔話でも海外の童話でも幾らでも構造的原点を求めることができる。そもそも《孫悟空》なのだ。西遊記そのものをベースにしている。しかし連載が進むうちに蛇行を重ね、ぶっ飛んだ作品となった。
小説家としてデビューする前、私にもよくわからなかった。デビュー後に繰り返し再読、再々読するうちに理解したのである。実はあの作品、プロとしてよく読むと“継ぎはぎ”だらけなのだ。プロになってから人の紡いだ作品でも制作途中でどこで何をしようとしたのか、どこで物語を曲げたのか、どこで継ぎ足したのか、見えるようになった。
「俺はそれくらい能力の高い作家なのだ」と自慢しているわけではない。商業レベルで日々真剣勝負で競っているプロなら誰でもわかること。読者にわからぬよう継ぎ目を隠してもプロにはわかる。中古車業者には車の傷を直した跡が見えるのと同じだ。コンパウンドででこぼこを埋め、細かいヤスリをかけて塗装し直しても微妙な光の反射具合で見えてしまう。
あの「ドラゴンボール」は連載のかなり早い段階で決着をつけ、終えるつもりだった。それがあまりの人気に編集部が延長願いを繰り返し、あのような大長編になってしまった。
ほかの漫画家なら何度も破綻していたであろう大改造を繰り返してなお、ストーリーもキャラもみじんも揺るがなかった。鳥山明がいかにトルクの太い馬力を持っていたかわかる。まさに漫画の化け物だったのだ。それを証明したのが「ドラゴンボール」だった。
(集英社 484円)