「谷根千、ずーっとある店」森まゆみ著

公開日: 更新日:

「谷根千、ずーっとある店」森まゆみ著

 1984年に創刊し2009年に終刊した地域雑誌「谷中・根津・千駄木」の編集人だった著者が、創刊以前から同地域にあった65軒の地元の店のライフストーリーをつづった書。情報誌の店紹介とは違って、町の暮らしを豊かにしてきたその店で働く人たち自身に焦点を当てて取材している。

 たとえば、谷中地域にある銭湯・朝日湯。地域の銭湯そのものが、雑誌創刊時の15軒から現在2軒へと激減するなか、近所の銭湯が次々廃業してしまいやめるにやめられなくなったと現店主は語る。新潟にルーツのあった創業者の話、戦争で銭湯どころではなくなり疎開していた時期、生き残りのために薬草湯や民泊を始めた話、町の人々とのつながりなど、地域を愛し地域に愛されてきた歴史が垣間見える。

 ほかにも千代紙屋、骨董店、豆腐屋、画材屋、たいやき屋、せんべい屋、手書き提灯屋、釜めし屋、竿屋、寿司屋、和家具屋など、日本全国均一のショッピングモールの店とは一線を画す個性豊かな地元店がずらり。個人商店の店が激減する風潮のなか、ローカルを豊かに支えてきた店主たちの心意気が伝わってくる。 (朝日新聞出版 2860円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    横浜とのFA交渉で引っ掛かった森祇晶監督の冷淡 落合博満さんは非通知着信で「探り」を入れてきた

  2. 2

    複雑なコードとリズムを世に広めた編曲 松任谷正隆の偉業

  3. 3

    中学受験で慶応普通部に進んだ石坂浩二も圧倒された「幼稚舎」組の生意気さ 大学時代に石井ふく子の目にとまる

  4. 4

    ドジャース内野手ベッツのWBC不参加は大谷翔平、佐々木朗希、山本由伸のレギュラーシーズンに追い風

  5. 5

    「年賀状じまい」宣言は失礼になる? SNS《正月早々、気分が悪い》の心理と伝え方の正解

  1. 6

    国宝級イケメンの松村北斗は転校した堀越高校から亜細亜大に進学 仕事と学業の両立をしっかり

  2. 7

    放送100年特集ドラマ「火星の女王」(NHK)はNetflixの向こうを貼るとんでもないSFドラマ

  3. 8

    維新のちょろまかし「国保逃れ」疑惑が早くも炎上急拡大! 地方議会でも糾弾や追及の動き

  4. 9

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  5. 10

    【京都府立鴨沂高校】という沢田研二の出身校の歩き方