著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

blackbird books(大阪・緑地公園)窓ガラスの向こうで本が見せる端正な“居住まい”

公開日: 更新日:

 新大阪駅から地下鉄御堂筋線と、乗り入れの北大阪急行で3駅目の緑地公園駅。西側に降りて、マンションが並ぶ静かな通りを進むと、窓ガラスの向こうに本が端正な居住まいを見せている。しっくりくる佇まいだなー。

「ここは妻の地元です。僕は神戸出身で、東京で音楽関係の仕事をしていましたが、独立して “お店”を持ちたくて。30歳のときに関西に戻り、2014年に始めました」

 と、店主・吉川祥一郎さん(45)。あまた種類のある“お店”の中から本屋を選んだのは「ずっと好きだった文学を軸に」との気持ちからだったという。

 そういえば。入り口正面の面陳列に平民金子著「幸あれ、知らんけど」、古賀及子著「巣鴨のお寿司屋で、帰れと言われたことがある」、中村佳穂+大竹昭子著「うたのげんざいち遍歴」など。エッセーとて文学のにおいを大量に発している新刊と見受ける。

「面陳列は、今、力を入れている本ですよね?」と聞けば、「いえ、あんまり力を入れず本屋やってます」と。「力まず」の意味だ。

ずっと好きだった文学を軸に古本ほか一人出版社の新刊、ジンまで

「買い取りとせどり(他店で購入)した古本で始め、途中から一人出版社などの新刊やジン(自主出版物)も入れるように。お客さんのニーズと僕の好みで……」

 というわけで、10坪の店内はのびのびしている。この日は坂口恭平のイラスト原画が展示されていたので見入り、遠藤周作、向田邦子の次に、「魯山人の料理王国」「パソコンとヒッピー」に気を取られ。

 あっ、短歌集がかたまった棚もある、と見ていると「岡野大嗣は、以前『近くに住んでいるんですが、置いてくれませんか』と最初の歌集「サイレンと犀」を持って来られて。その後、すっかりブレーク。NHKにも出ています」と。もう1人のブレーク歌人、木下龍也との共著「玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ」も並んでいた。

 さらに、面白かったのが、「里山で暮らしている奈良の友人が作ったジン」だという「棍棒入門」。さまざまな樹木での棍棒作りから「棍棒飛ばし」競技まであっぱれな思想と実務が満載。買った!

 アートブックも充実。また、一隅に、妻の茜さん(44)担当の「花器」のコーナーも常設。ひと味違った生花が販売される日もある。

◆大阪府豊中市寺内2-12-11階/℡06.7173.9286/北大阪急行緑地公園駅から徒歩5分/10~19時、月曜・第3火曜休み(5月5日は臨時営業)

ウチの推し本

「その日暮らし」坂口恭平著

「著者の坂口さんはうつ病で、ときどき具合が悪くなる……を繰り返しているんですが、そろそろ治したいとなって、昔の記憶をたどって、トラウマを見つけにいく。そんなエッセーです。あと、『自殺をしたくなったら、かけてきてください』と、自身が開設している『いのっちの電話』のことも書いていて、掘り下げが深い。坂口さんの著作を読むのが初めての人にもおすすめしたいですね」

(palmbooks 1760円)

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