「珍パク 関東近郊マニアック博物館の世界」大関直樹氏

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「珍パク 関東近郊マニアック博物館の世界」大関直樹著

「『珍パク』とはズバリ“珍しい博物館”のこと。基本的に個人経営で、自分の好きなものをとことん追求して好きなように展示している。メジャーな博物館とはひと味もふた味も違う、オンリーワンの面白さがあります」

 文部科学省の調べによると、日本には5700以上もの博物館があるという。一方で、このうち博物館法で規定された登録博物館と指定施設はわずか2割ほど。残りの8割は博物館類似施設に分類され、多くは個人の趣味と情熱から生まれた私設博物館だ。

 本書では著者選りすぐりのマニアックな博物館、15館を紹介しているが、展示物だけでなく館長にもスポットライトを当てている点が珍パクらしい。

「執筆のきっかけとなったのは本書にも掲載している、古民家の模型を展示する『哀愁のふるさと館』でした。秩父のガイドブックの取材でたまたま訪れたのですが、趣味が高じて会社員を辞めて模型作りに専念し、ついに博物館を造ってしまったこと、模型ひとつひとつが超精巧に再現され、古民家にありがちなクモの巣は本物のクモを捕まえてきて張らせるなど、館長の模型作りへの執念というか狂気じみたものを目の当たりにしました。私設博物館だからこそ、ここまでできるのだと、心底驚かされましたね」

 性・サブカル関連、鉄道・インフラ・軍事関連、昭和レトロなどジャンル別に紹介されているが、いずれにも共通するのが展示物の背景にある館長たちの人間ドラマの面白さだ。例えば、東京都世田谷区にある「大勝庵 玉電と郷土の歴史館」。玉電の運転席から多摩川の河川敷で拾った石まで、12畳ほどの館内にところ狭しと展示されている。

「館長の大塚勝利さんは1970年からこの地でそば処大勝庵を営んでおり、2011年の店じまい後に長年集めてきたモノたちの博物館をオープンしました。戦後の時代を過ごしてきたのでモノが捨てられないと話し、空き缶コレクションや新聞の題字など郷土に関係のなさそうなものもたくさん展示されています。しかし、いざ見たいと思っても探し出せないようなものも多く、40~50年前の折り込み広告などは価値が出てきて、百貨店の周年記念に貸し出したりもしたそうです」

 夢のお告げから人面石集めを始めたことが始まりという「秩父珍石館」、幼い頃に見た遊郭や見せ物小屋の怪しくもワクワクする雰囲気を再現するべく、呪物をはじめ怪奇骨董品を展示する「鴨江ヴンダーカンマー」など、オンリーワンの珍パクが目白押しの本書。実際に訪ねた際には、館長に話を聞くのがお勧めだという。

「珍パクを運営するような人に話しかけて大丈夫かと不安になるかもしれません(笑)。でも、基本的に話し好きの館長が多いんです。また、展示に関しては見にくいことも多いのですが、話を聞くことで補えて、珍パクの醍醐味が感じられます。やっぱり、突き抜けたことをしている人の話は面白いですよ」

“人の目など気にせず、好きなことをやっても生きていける”ということを教えてくれるのも珍パクの魅力だという著者。もし、あなたにも譲れない“好き”があれば、珍パクの館長という第二の人生もあるかもしれない。

 ゴールデンウイークには本書を携えて、珍パク巡りをしてみてはいかがか。

 (山と溪谷社 1540円)

▽大関直樹(おおぜき・なおき)1968年、北海道生まれ。大学卒業後20代後半からフリーライターに。「山と溪谷」などの山岳雑誌や小学生向けの科学雑誌などで執筆。主な共著に「上高地ハイキング案内」「150%パニック!絶対ダマされる!?からだマジック」などがある。

【連載】著者インタビュー

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