歌舞伎座・團十郎・鏡獅子・親子公演…邪悪に満ちた世の中を、一瞬だけ、清浄になった気分にしてくれた
團十郎主演の「め組の喧嘩」は、全体に録画を早回しで見ているようなせせこましさを感じた。意図して速いテンポにしているのならそれはそれでいいのだが、セリフが伝わらないところがあった。中村扇雀の女房お仲はギスギスした感じで情がなく、夫が死ぬのを望んでいる、いやな女房にしか見えない。
「春興鏡獅子」は9代目團十郎が1893(明治26)年に歌舞伎座で初演したもの。その時、胡蝶の精を演じたのは9代目の娘2人で、女人禁制の前例を破ったものでもあった。「團十郎」という役者が「歌舞伎座」で「鏡獅子」を上演するのは、それ以来というから、約130年ぶりだ。しかも今回も息子の新之助と娘のぼたんを胡蝶の精にして共演。2人の子の年齢・身長から、多分これが最後だろう。
9代目がいた時の歌舞伎座とは建物が違うし、13代目と9代目とは血のつながりはない。それなのに、歌舞伎座・團十郎・鏡獅子・親子共演という要素が揃うと、何かが降臨する。邪悪に満ちた世の中が、一瞬ではあるが、清浄になった気分で、歌舞伎座を出た。
(作家・中川右介)


















