時代を駆け抜けた名馬たちの肖像|「馬の肖像 驥魂」長瀬智之著
「馬の肖像 驥魂」長瀬智之著
馬専門の油彩画家として活動を続ける著者の30年に及ぶ画業を集大成した作品集。
モデルとなる馬のもとに何度も通い、その瞳の奥に宿る「魂」を見つめ、その尊い生命を画布に写し取ることに心血を注いできたという著者の渾身の作品が並ぶ。
ページを開けば、各作品に描かれた馬たちが放つ存在感に圧倒され、その言葉に納得することだろう。
描かれているのは、競馬ファンならずともその名を知る競馬界のレジェンドたちだ。
史上7頭目のクラシック三冠を成し遂げたオルフェーヴルは、ギャロップで疾駆しているかのような動きのある姿で描かれる。
その赤みを帯びた特徴的な輝くような栗毛はつややかで、みなぎるひとつひとつの筋肉や、風になびくたてがみ、豊かな尻尾の一本一本まで、まるでその鼓動さえ聞こえてきそうな迫力だ。
戦後初のクラシック三冠馬で、当時の最多勝である五冠を達成して競馬史にその名を刻む「シンザン」と、皇帝「シンボリルドルフ」、そして英雄「ディープインパクト」。五冠馬という偉業を達成した3頭が時空を超えて一幅の絵の中で競演する競馬ファンには夢のような作品もある。
3頭が並び立つその姿は、まさに威厳さえ感じられるほどだ。
各作品は、「ただ姿かたちを模写するのではなく、その馬の精神性や内なる輝き、そして血統の歴史の背景」までをも描き出すと高く評価されている。
読者は、サラブレッドの存在としての美しさに改めて気づかされることだろう。
「黒の系譜」と題された作品には、不遇の幼少期を過ごし病気や事故で何度も生死の境をくぐり抜けながら、アメリカで競走馬として実績を残し、日本に輸入されてからは種牡馬として、ブラックタイド、その子キタサンブラック、そしてイクイノックスへと続く血脈を一枚の作品に描き込む。
他にも、コントレイルやアーモンドアイなど、顕彰馬に選ばれた名馬で、JRA競馬博物館に収められている肖像画も多数収録。
テーマは競走馬だけに収まらない。近代競馬発祥の地である英国の王室儀仗隊「ブルーズ・アンド・ロイヤルズ」をモデルにして、7頭の漆黒の馬が盛装した隊員を背にして行進する大作(英国王室騎兵乗馬連隊の本拠地ハイド・パーク・バラックス永久収蔵)をはじめ、岩手の伝統行事「チャグチャグ馬コ」の装束をまとった馬、「絆 Bond」と題し親子の馬が描かれた屏風絵、さらに素描まで。
印税は引退競走馬のセカンドキャリア支援をはじめ、希少な日本在来馬の保護など馬事文化全体の更なる発展のために役立てられるという。まさに競馬ファン必携の一冊だ。 (青幻舎 8800円)



















