室内土足の慣習を唯一守り抜いているのが天皇家|「日本人はなぜ家で靴を脱ぐのか」井上章一著
「日本人はなぜ家で靴を脱ぐのか」井上章一著
かつて著者は、ブラジルのリオデジャネイロの街中で転倒し顎を打ちつけ、日系人の外科医に手当てを受けた。医者からベッドに横になれと指示され、靴を脱いでベッドにあがろうとしたところ、医者からどうして靴を脱ぐのかとたしなめられた。治療を受けながら著者は考えた。ベッドに土足であがることに自分はなぜ抵抗を感じるのか、「私をこんなにしてしまった日本文化を、とらえなおしたい」と。かくして出来上がったのが本書である。
まず考察されるのは、室内では靴を脱ぐという日本の慣習に安土桃山時代に来日した西洋の宣教師たちはいかに対応したか。宣教師たちにとっても家の中で靴を脱ぐか脱がないかは大きな問題だったようで、布教のために日本の生活様式に合わせて室内では靴を脱ぐ人が多かったと推測される。
だが、これが外交折衝となるとまた違ってくる。ロシアのラクスマンは日本側との会談で、靴を脱いで平伏するようにとの日本側の要求を拒否し、自らは椅子に座って土足を通したという。彼らにとって靴を履かずに相対することは非常に無作法なことだったからだ。一方、アメリカのハリスは、室内に入る際に、新しく汚れていない靴に履き替えるという妥協策を講じた。
明治以降もこの問題は引き続き、錦絵や新聞のイラスト、日記や記録などさまざまな資料を駆使しながら、来日した西洋人たちがどのように対処していたのかを明らかにしていく。
片や、日本でも近代化が進むにつれデパートをはじめとする各種公共施設では室内の土足解禁が進められていく。華族などの上流層もまた自らの先進性を示すために屋内での靴使用をする家が多かったが、戦後は彼らも家の中では土足不可に戻る。ただし、この室内土足の慣習を唯一守り抜いているのが天皇家だという指摘は、目から鱗。
室内での土足を嫌う国は日本以外にもある。その考察も含め、この問題、まだまだ奥が深そうだ。 <狸>
(新潮社 1815円)



















