ふらつき、せん妄、物忘れなどの症状…認知症ではなく「薬の副作用」が原因かもしれない
米ハリウッドスターのブルース・ウィリス(67)が、認知症を発症したと世界的な話題になっている。失語症で家族との会話も難しいという。残念ながら名優が患ったタイプの認知症は治らないが、中には治るタイプもある。それが薬の影響によるもので、いま注目されている。
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「ダイ・ハード」や「アルマゲドン」など数多くの名作で大ヒットを飛ばした俳優が患う認知症は、前頭側頭型認知症。病名の通り、脳の前頭葉と側頭葉がダメージを受けることで発症。特に前頭葉は理性をつかさどる部分で、失語症のほか、理性がなくなったり、融通が利かなくなったりする。理性による抑制が外れるため、万引や痴漢など問題を起こすこともあるが、全体の1~5%と少ない。
これに対して全体の6割程度を占めるのが、アルツハイマー型。脳に異常なタンパク質が蓄積することが原因とされ、発症すると特に新しいことを覚えられなくなったり、時間や場所の認識力が失われたりする。
いずれも最先端の医学でも、治すことはできない。発症初期に進行を遅らせるのが限界だ。では、薬の影響で発症する認知症が治るとは、どういうことか。米山医院院長で、聖マリアンナ医大神経内科・元准教授の米山公啓氏に聞いた。
「特に高齢者は、持病をいくつも抱えて、複数の薬を服用していることが珍しくありません。薬が増えるほど、副作用が現れやすく、その中には認知機能の低下を引き起こし、認知症のような症状が現れやすい。そんな症状で注意したいのは、ふらつきや転倒、せん妄、物忘れで、私の患者さんの中にはふらつきやすくなって転倒が増え、外出がおっくうになり、寝たきりに近い状態で介護を必要とした方もいます。当然、この方の“認知症”は薬が原因ですから、薬を見直すことで治るのです」
その人は80代で、糖尿病や高血圧、狭心症、うつ病、不眠症などで複数の医療機関を受診。それぞれで処方される薬の数は10種類を超えていたという。
■75歳以上は6種類以上の服用に要注意
東大大学院医学系研究科・秋下雅弘教授らは、薬の数(種類)と副作用の頻度を調査。それによると、6種類以上は副作用の頻度が10%を上回っていた。6種類以上の服用は、薬の副作用が出やすく要注意だ。
そこで、患者の世代別に処方薬の数を調べた調査では、40~64歳は「1~2個」「3~4個」を合わせて76%で、「7個以上」は10%。75歳以上では、「4個以下」が58%に減り、「7個以上」が25%に増える。「5~6個」は16%で、70代後半は、5人に2人が多剤併用の副作用に襲われるリスクが高いことが見て取れる。
米山氏が経験した80代のように薬の副作用で寝たきりにまでなるのは極端なケースだとしても、せん妄や物忘れ、ふらつきなどはよく起こる。さらに排尿障害で失禁したり、便秘になったり。うつ症状もあるという。
30代や40代が薬を飲み始めてすぐにこれらの症状が現れたら、薬の副作用を疑うだろうが、70代や80代だとどうか。年齢が年齢だけに、家族も認知症と思い込んでしまうかもしれない。これが多剤併用の“悪夢”から抜け出せなくなるゆえんである。