丹羽宇一郎氏が提言 今の日本こそ「戦争の真実」学ぶべき

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 この国のトップは緊迫する北朝鮮情勢に「対話より圧力」と拳を振り上げ、設立されたばかりの新党の女性党首は「リアルな安保」を入党条件に掲げる。社会全体に開戦前夜のようなムードが漂う中、中国大使を務めた経験を持つ国際ビジネスマンである日中友好協会会長の丹羽宇一郎氏は近著「戦争の大問題」で、こう訴えかけている。今こそ日本人は「戦争の真実」を知らなければいけない。

■今の政治は「民の声」が反映されていない

  ――近著をまとめるのに多くの戦争体験者や軍事専門家に直接、話を聞き歩くのは大変だったと思います。そこまでの労力を払って、この時期に「戦争の大問題」を世に問うたのはなぜですか。

 トランプ米大統領の誕生により、世の中に幾つもの「真実」が出てきました。ポスト・トゥルース、オルタナティブ・ファクト、フェイク・ニュースとか。客観的な事実より虚偽であっても、個人の感情や心情に訴えかける方が世論に強い影響力を与えてしまう。「真実とは何か」と考える機会をくれたトランプ大統領には感謝しますが、「戦争の真実」について私は考えました。戦争を知らない人々がますます増えゆく日本で戦争が近づく中、戦争とは一体何か、その真実は誰が決めるのか。

  ――確かに「真実」にもいろいろありますね。

 戦争から帰還した人がオルタナティブ・ファクトを語っている可能性もあるわけです。ならば大勢から話を聞かなければ真実は分からない。真実の度合いを広く深く自分の感覚で正確に知りたかった。戦争のリアルを知る人々は90歳を越えています。私も含め戦争体験者にはあまり時間はない。存命中にお会いして話を聞き、戦争を知らない世代に戦争の真実を活字で残す。それが、われわれの世代の義務です。

  ――本の冒頭に引用された「戦争を知らない世代が政治の中枢となったときはとても危ない」という田中角栄元首相の言葉が印象的です。

 やはり戦争を知らない世代は戦争のリアルなイメージを持ちえない。戦争の「におい」とか「味わい」とか。最近も麻生副総理が北朝鮮からの武装難民の射殺に言及しましたが、彼は人を撃った経験があるんですか。人と人が1対1で撃ち合うなんてできません。人間ができない残酷なことは戦争体験者は絶対口にはしません。

  ――角栄氏の危惧がまさに顕在化しています。

 若い人は、先の大戦で日本兵は勇ましく撃ち合って戦場に散ったと思っているけど、帰還者に話を聞くと、大半は撃っていない。ひたすら歩き、さまよい、飢餓や疫病で亡くなった人々が圧倒的に多い。実際に引き金を引いた人も敵兵を目の前にして撃ってはいない。あの辺にいるはずだと目をつぶってバババッと撃っている人が大半です。今のシリアの戦闘映像と同じ。だから人を殺した実感がない。だが、それが戦争の本当の残酷さです。

  ――そんな目には遭いたくありませんね。

 ただ、本当の戦争を知る人々は、その体験を自分の子供たちにも話せない。食料を奪ったり、友達の肉を食べたり。いざという時にそこまで残酷な動物となった経験を語れるわけがない。戦争は人を狂わせます。だから体験者は皆「戦争だけはやらないでくれ」と口をそろえるのに、戦争をイメージできない世代には「やろう」と粋がる人が多い。こんな怖いことはない。

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