「去年の冬、きみと別れ」中村文則著
<狂気と紙一重の過剰な愛を描く純文学ミステリー>
「あなたが殺したのは間違いない。……そうですね」
フリーライターの「僕」は、拘置所のアクリル板ごしに、こう問いかける。相手は、女性2人を猟奇的に殺害し、死刑判決を受けた男。彼は、なぜ彼女たちを殺したのか。しかも、あんな酷いやり方で。男の内面に踏み込もうとする「僕」に、男は問いを返す。「覚悟は、ある?……」。男との心理戦は、「僕」に緊張を強いる。こうして取材を始めた「僕」は、事件の異様な世界にのみ込まれていく。
著者は「土の中の子供」で芥川賞、「掏摸〈スリ〉」で大江健三郎賞を受賞した若手純文学の旗手。「掏摸〈スリ〉」は英訳され、ロサンゼルス・タイムズ文学賞の最終候補作にもなった。
この書き下ろし作品で開いた新境地はミステリー。取材を進める「僕」の独白が軸になっているが、展開はひと筋縄ではいかない。読者は幾重にも仕掛けられた作者の企みに翻弄されながら、人の心の闇と向き合うことになる。過剰な愛は狂気と紙一重……。