「新・古代史」NHKスペシャル取材班著
「新・古代史」NHKスペシャル取材班著
古代日本のヤマト王権のルーツは東北アジアの騎馬民族にあるという江上波夫の「騎馬民族征服王朝説」は、ひところ大きな話題を呼んだが、この説には批判も多く、現在では正面から取り上げられることはほとんどない。
しかし、近年日本各地で出土した馬の骨や歯などを科学的に分析した結果、5世紀には列島全土にまたがって馬の生産・飼育のネットワークが形成されていて、そこにヤマト王権が深く関わっていたことが判明。また奈良県の富雄丸山古墳から出土した2メートルを超える蛇行剣の分析から朝鮮半島からもたらされた最新の鍛冶技術による鉄器の量産の実態も分かってきた。
ヤマト王権はこの鉄器と騎馬技術によって地方統治を進めたのであり、騎馬民族説で注目された王権における馬の役割と大陸・朝鮮半島とのつながりが改めて注目されているという。
こうした分析で重要なのはさまざまな遺物の年代測定だ。従来、考古学調査では「放射性炭素年代測定」が使用されていたが、近年より正確な「酸素同位体比年輪年代法」が導入され、これまで不明だった事物の年代が新たに特定されるようになってきた。
本書はこれら最新の科学的手法を駆使するとともに、東アジア世界のグローバルな視点から邪馬台国を起点とする日本という国の始まりの謎に迫るというもの。
邪馬台国はどこにあったのか、また卑弥呼とはどういう人物だったのか、「空白の4世紀」と前方後円墳の関係、そして「倭の五王」と激動の東アジア世界との関係など古代史ファンならずとも興味を惹かれる謎に、従来の説に最新の知見を加えながらさまざまな角度から光を当てていく。
無論すべての謎が解かれたわけではなく、まだまだ不明なことも多いのだが、科学技術の進展や中国や朝鮮半島も含めた考古学的な新発見によって、古代日本の実像が今後さらに大きく変転していく可能性を示している。 〈狸〉
(NHK出版 1078円)