著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。2012年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。現在、名古屋芸術大学客員教授として文学や漫画理論の講義を担当。

「柔道部物語」(単行本全11巻)小林まこと作

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「柔道部物語」(単行本全11巻)小林まこと作

 小林まこと先生の作品からひとつ選ぶにあたって正直いって迷った。世間全体への認知度からいえば「1・2の三四郎」一択だろう。熱狂的なプロレスマニアを育てた漫画だ。昭和プロレス漫画の表番長が「プロレススーパースター列伝」だとすると、裏番長は間違いなくこの「1・2の三四郎」である。

 しかしマニア度でいえば、この作品よりはるか上に「柔道部物語」がある。モチーフの関係者に愛されたという意味で、これほど精緻にそのジャンルを掘った作品はない。この連載コラムで紹介してきた野球漫画にしても金融業界を扱った漫画にしても、読者を楽しませるには十分な情報が入っていた。しかしとても「柔道部物語」には及ばない。柔道経験者にとって一つ一つのエピソードが垂涎だった。

 たとえば舞台の岬商業柔道部伝統のセッキョーという実にくだらない行事が描かれている。新入部員を甘言で入部させて数日後にやってくるこの行事は「上級生が1年生の頭を何を使って殴ってもよい」という日だ。なかには電車通学で持ってきた大きなコタツで殴ったりする先輩もいたりするのが“柔道部あるある”のバカさ加減だ。

 しかしあのセッキョー、ただのバカシーンではなかった。全国の柔道家たちは読んでみな驚いたのだ。自分も似たような通過儀礼を受けた経験があるからだ。中学校の柔道部で経験した者、高校の柔道部で経験した者、大学や実業団の柔道部で経験した者もいる。じつは私の所属した北海道大学柔道部でも「カンノヨウセイ」なる謎の名前で毎年似たような行事が続いていた(この行事のくだらなさについては私の自伝的小説「七帝柔道記」を)。このセッキョーのような行事は全国あらゆる柔道組織に存在していたらしい。最初に始めたのがどこかわからないが、合同合宿などでじわじわと広がったようなのだ。

 今回冒頭に《小林まこと先生》と《先生》付けで書いたので今コラム連載の読者は驚いたかもしれない。高校時代からのファンだからだが10年ほど前に雑誌対談させていただいたからでもある。会ったときに聞いて驚いたのは「柔道部物語」連載中に古賀稔彦本人からファンレターが届いたらしい。当時現役バリバリの超人気選手から手紙が届くのだ。いかに柔道家たちに愛された漫画だったかわかるであろう。

(講談社 電子版792円)


【連載】名作マンガ 白熱講義

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