移民とニッポン

公開日: 更新日:

「国境アトラス」デルフィヌ・パパン、ブルーノ・テルトレ著、岩田佳代子ほか訳

 日本の総人口が14年連続で減少と総務省が発表。では移民に頼るか、と簡単にはいかなそうだ。

  ◇  ◇  ◇

「国境アトラス」デルフィヌ・パパン、ブルーノ・テルトレ著、岩田佳代子ほか訳

 1期目は米国とメキシコの間に壁を建設するとほえたトランプ政権。今期は強引な強制送還に打って出た。しかし実は国境問題はアメリカだけの難問ではない。

 各地で紛争や戦争のたびに難民があふれ、その受け入れに肯定的だった西欧諸国はことごとく反発する右派勢力が選挙で躍進した。中国の海軍力増強に見られる東アジア有事への懸念も海上の国境争いなのだ。

 本書はこうした状況をふまえ、フランスの地政学の専門家たちが編んだ世界中の国境をめぐる図解集だ。

 歴史的にみると国境は近代になるまで曖昧なものだった。山脈や河川などが区切りとなった自然な国境は、いま世界では55%。対して地図上に直線で記されるような人為的な国境は45%という。

 どきっとするのは「壁と移民」の章。スペインとモロッコ、ハンガリーとセルビア、アメリカとメキシコ、韓国と北朝鮮など政治・社会対立が築く壁がいかに厳しいフィルターになっているかが一目でわかる。風光明媚な地中海も本書で見ると、アフリカから北上を試みる難民たちが命を危険にさらす海の墓場の様相を呈しているのだ。四方を海で囲まれて国境問題にうとい日本人の学ぶべき世界地図だ。

(日経ナショナルジオグラフィック3630円)

「移民リスク」三好範英著

「移民リスク」三好範英著

 日本で移民問題というと、クルド人問題や非人道的な入管行政などがすぐに挙がってくる。少子高齢化と急速な人口減少に対しては移民政策を変えることが必須という声も少なくない。これに警鐘を鳴らす著者は読売新聞の元特派員。

 たとえば「ワラビスタン」の異名をとる埼玉県の川口市・蕨市を現地取材し、2023年夏に川口で起こったトルコ人とクルド人の抗争から病院前で大混乱が起こった事件が社会問題化への大きな節目になったという。難民として入ってきた若者たちが常に刃物を隠し持っていることがわかり、日本人社会が強い違和感を示すようになったのだ。

 他方、著者は幼いころに親に連れられてきたクルド人の若者たちにも取材。彼らの意見を聞き出すとともにトルコのクルド人地区にも取材に出かけて現地の声を聞き取っている。一口にクルド人といっても思想や志向は多様で、自己主張や自己弁護に終始するとは限らない。多文化共生に意欲的な川口市政も直接取材したうえで、関係諸機関の連携がないなどの欠点も指摘。単純な排斥論でも受け入れ論でもない見方を探る姿勢には好感が持てる。

(新潮社 968円)

「移民難民」川口 マーン 惠美著

「移民難民」川口 マーン 惠美著

 ドイツにピアノ留学して以来、すでに40年以上のドイツ暮らしを経験してきた著者。生活者すなわち一般のドイツ市民の立場からの日独比較でエッセイストとしても知られるが、近年はドイツ批判の急先鋒。特に2015年、当時のメルケル独首相が中東難民に門戸を開いたことを著者は厳しく批判する。

 またメディアもメルケルの肩を持つばかりで、移民の若者による暴力事件や犯罪の真相を伝えることもしないという。ナチス時代の反省からドイツは戦後一貫して人道国家の制度と評判を築き上げてきたが、そのタテマエが自縄自縛となってドイツの混乱を招いているわけだ。周辺の欧州各国も同じ難民でもウクライナ難民は歓迎だが、シリアなど中東の難民はお断りとするなど自分勝手な実態が露見している、と。

 本書は直近10年ほど日本の雑誌やウェブマガジンの記事を集めたものだが、どこを切ってもドイツ批判が噴き出す。終章は日本への警告。「外国人が多くなりすぎると、治安は不安定になり、文化や伝統が崩れ、国家は最終的に原型をとどめなくなる。それは、すでにそうなりかけているドイツやフランスが、十分に証明してくれている。その二の舞いになることだけは、絶対に避けるべきだ」

(グッドブックス 1650円)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • BOOKSのアクセスランキング

  1. 1

    日本の課題がわかる「リチウム戦争」アーネスト・シェイダー著/ニューズピックス(選者:佐藤優)

  2. 2

    無謀な戦争の末路(1)イギリスに「東のスターリングラード」と呼ばれた激戦

  3. 3

    皿書店(豪徳寺)「開高健も書いているし、食の本の店にしよう。そんな感じで」1年前にオープン

  4. 4

    「埋もれてきたもうひとつの抑留の真実と、日本政府の冷淡を知ってもらいたい」──「モンゴル抑留 見捨てられた死者たち」井手裕彦氏

  5. 5

    天皇と戦争の世紀(1)岸信介外相の入閣に異を唱えた昭和天皇

  1. 6

    古書 音羽館(西荻窪)「本屋は街の縮図。誰が入ってきても何か引っ掛かる本がある店を」

  2. 7

    「いのち、見つめて」夏川草介、渡辺淳一ほか著|看取りの真意を問いかける傑作医療小説集

  3. 8

    天皇と戦争の世紀(3)無条件降伏の後、日本側が天皇制をどう死守したのか

  4. 9

    まだまだ暑い!酷暑を意識から追い出すミステリー本特集(2)「能面検事の挫折」中山七里著

  5. 10

    よみがえった写真が伝える戦前戦時下の“時代の空気”「AIとカラーでよみがえる戦争の昭和史」別冊宝島編集部編

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    朝ドラ「風、薫る」“シマケン”はブーイングも…Aぇ! Group佐野晶哉には「オファー増」の追い風

  2. 2

    北島三郎(3)「北島ファミリー」の長女・原田悠里が語る御大

  3. 3

    “世界ランク1位”の座を捨てて甲子園へ 享栄・上江滝拓未「将来はプロかバスの運転手」

  4. 4

    バナナマン日村が簡単に復帰できそうにない「もう1つの理由」…レギュラー11本抱える人気者のジレンマ

  5. 5

    りくりゅうペア大逆転金メダルを呼んだ“かかあ天下” 木原龍一はリンク内外で三浦璃来を持ち上げていた

  1. 6

    りくりゅう“ジュニア”に早くも金メダル期待 一般家庭の子にはない「血」と「資金」の強み

  2. 7

    高市政権が国民資産「強奪」計画! 現預金1100兆円を狙い撃ち、放漫財政のツケを庶民のフトコロに押しつけ

  3. 8

    ビートたけし&島田洋七「ほとんどリタイア」の現在地…「おお元気か?」と連絡し酒を酌み交わす

  4. 9

    日本ハムは「レイエス流出阻止」が最優先課題 優勝争い&新庄監督の去就以上に重大なワケ

  5. 10

    警察は田岡邸を没収し、兵庫県や神戸市の持ち物にしたらどうだ