お仕事漫画編
柏木ハルコ著「健康で文化的な最低限度の生活」
子供の頃のようには頻繁に漫画を読まなくなったという大人でも、興味深く読めるのがいわゆる職業系の漫画。自分の仕事とはまったく馴染みのない業界でも、さまざまな苦労や仕事の醍醐味などが分かり、引き込まれること間違いない。今回は、福祉事務所のケースワーカーや男性保育士、溶接工などの仕事を題材にした4冊を紹介しよう。
柏木ハルコ著「健康で文化的な最低限度の生活」(小学館 552円+税)は、生活保護を題材とした漫画だ。福祉事務所の新人ケースワーカーである主人公が、国民の血税を守りながら弱者を救うために何ができるのかと悩み、さまざまな問題を抱える世帯と向き合っていく物語である。
公務員として新卒採用された主人公・義経えみるが配属されたのは、福祉保健部生活課。生活保護を扱うこの部署は仕事の内容も重く、新人にとってもっとも配属されたくない部署だった。先輩のフォローが付くものの、初日から110もの生活保護世帯を任されたえみる。ケースワーカーは事務所での対応だけでなく、直接自宅に訪問して調査することも重要な業務だ。先輩に連れられて行った最初の訪問先は、母親に捨てられた小学4年生の娘と、75歳の祖母がふたりで暮らす世帯だった。
祖母は認知症が始まっているのか、部屋は散らかり放題。排尿処理も困難になっている様子で、尿の臭いが家中に立ち込めている。
先輩は、保健師の訪問依頼や地域包括支援センターへの相談、介護保険認定申請などさまざまな指示を出すが、知識のないえみるはケースワーカーの役割の重さに唖然とするばかりだ。
またあるときは、受給者から自殺をほのめかす電話がかかってくる。「これ以上役所に迷惑をかけて生きるのは忍びない」という言葉に焦るえみるだが、親戚に連絡しても“いつものことだから気にしなくていい”との返答。後日、本当に自殺してしまった事実を知ったえみるは、“1世帯減ったと思えばいい”という先輩の言葉にやりきれなさを感じる。生活保護費は国民の血税である。しかし、そう簡単に割り切れるのか……。
薬物依存の後遺症を持つ人、虐待の疑いもある母子家庭、そして“不正受給”が疑わしい世帯など、さまざまな事情を持つ受給者の姿もリアルに描かれていく。その中で成長していく主人公の物語というとよくある話のように思えるが、この職業が向き合う問題があまりにも重く、それゆえに読みごたえも十分。巻末の謝辞の欄にずらりと並んだNPOや救護施設のリストからも、本作が緻密な取材によって描かれたリアルな漫画であることが伝わってくる。