【ヒンド・ラジャブの声】イスラエル軍の射撃を受ける6歳の幼女の悲痛な叫び
「ヒンドの声は、ガザそのものの声」
本作の緊迫感を高めているのは当日に録音されていたヒンドの実際の肉声を使っているからだ。「助けて」と懇願する6歳の幼女の悲痛な声が生々しく迫り、戦争の悲惨さを強烈に訴えてくる。劇中にヒンドの映像はなく、数枚の写真でその姿を見るだけだが、会話のやり取りから、観客は彼女のあどけない姿と生命の危機を想像することになる。
ヒンドは車内で恐怖に震えている。一方、救急センターでは「すぐに助けろ」と詰め寄るオマールと「これ以上部下を失いたくない」と慎重に対処しようとするマフディが対立。ニスリーンはヒンドを安心させようとつとめる。男たちは怒鳴り合い、女は嗚咽しながらも優しく幼女に語りかける。それぞれが自分の立場でヒンドを救おうとするのだが、そこには〝二次災害〟の危険性や救急車出動のための煩雑な手続きが横たわっている。ひとたび戦闘が始まると、後方の組織までもが修羅場と化すのだ。そのため救助は進まず、時間だけが刻々と過ぎていく。
メガホンを取ったカウテール・ベン・ハニア監督はこう語っている
「ヒンドの声は、ガザそのものの声です。世界中に響き渡った『助けて』という叫び。しかし、誰も応えませんでした。 彼女の声は、真の責任が問われ、正義が実現されるその日まで、響き続けるでしょう。(略)(ヒンドの物語は)ジェノサイドに耐え続ける人々全体の物語であり、罪を問われることのないイスラエルの犯罪的な政権によって引き起こされた悲劇です」
本作を見終わったとき「アンネの日記」が脳裏に浮かんだ。同書は一人の少女の日記によってユダヤ人が受けたホロコーストの悲劇を戦後世界に突きつけた。一方、この「ヒンド・ラジャブの声」はパレスチナ人の女の子の叫びによって、ユダヤ人の軍隊によるジェノサイドを世界に知らしめた。
被害者がいつしか加害者に……。両者の皮肉な関係性に、人権を尊重する我々はとまどうしかない。(配給=スターキャットアルバトロス・フィルム)
(文=森田健司)



















