動物を主人公に描く“何気ないけれど嬉しい瞬間”「寺澤智恵子作品集 まいにちの、すてきないろいろ」寺澤智恵子著

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「寺澤智恵子作品集 まいにちの、すてきないろいろ」寺澤智恵子著

 版画家の著者による初の作品集。

「今この時間、なんだかいいな、ちょっと素敵だな──そんな何気ないけれど嬉しい瞬間」を描いてきたという著者。

 冒頭の「ずっと探していたレコード」と題された作品から、その言葉に納得する。この作品では、今まさにレコードに針を落とそうとしている猫と、その傍らには、音楽をより一層楽しくするためにドーナツとコーヒーが用意されている。

 続く「コーヒー待ち」と題された作品では、ドリップされているコーヒーの一滴一滴を凝視するフクロウが描かれる。毎日を楽しみながら生きているフクロウの日常の一コマだ。この作品でも、テーブルにはミルクやお砂糖とともに、コーヒーのお供としてケーキが準備されている。

 ここまで読んで、もうお気づきのように、作品の主人公は柔らかなシルエットの動物たちだ。

 気持ちのいい休日にサンドイッチとフルーツジュースを車に積んでドライブに出かける猫とウサギとフクロウを描いた「ドライブ」では、後部座席でご機嫌でドライブを満喫する猫の表情とは対照的に、フクロウは運転に集中している。実は運転免許を取ったばかりだそうだ。

 助手席に座るウサギは反対側の車窓に現れた富士山に見入っており後ろ姿だ。

 バーのカウンターでしみじみと一年を振り返るフクロウとハリネズミを描いた作品「ウィスキー」。彼らは長年の付き合いで、年末にウイスキーを飲んで近況報告するのが毎年続ける年中行事だそうだ。 

 このように、多くの作品にタイトルとともに、著者自身による状況を説明する短い文章が添えられている。

 そこから始まる物語の続きを紡ぎだすのは、読者自身だ。

 生きていれば、たまには苦しくてつらい時間もある。

 バーで出されたカクテルに手もつけず物思いにふける表紙の猫は、「同僚に恋してしまって、どうしていいか分からず」途方に暮れているところ。「ぐるぐると考えがまとまらず、ビターなカクテルを眺めています」という「恋わずらい」という作品だ。

 でも、きっと時を経て、そんな苦しい思いをした時間が懐かしくなる時がやってくる。

 小さな猫がバレンタインに間に合わせようとハート柄のマフラーを編む「編み物」という作品では、同じ原画をエッチングとリソグラフという異なる技法で仕上げ並列。舟の上でピクニックする猫たちを描いた原画を、湖面いっぱいに桜の花びらが浮かぶ春バージョンと、青い水面を舟がゆく夏バージョンに仕立てるなど、さまざまな試みも楽しい。

 ほかにも、十二支が揃って「列車でめぐる富士山ツアー」に参加した場面を描いた賑やかでおめでたい作品があるかと思えば、夜寝る前に大好きなワインをたしなむ猫の静かな時間を描いた「ワイン」など。温かな線による作品世界と物語性に引き込まれる。

(ホビージャパン 3300円)

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