「ズボンの政治史」クリスティーヌ・バール著 吉川佳英子ほか訳|パリ周辺女性のズボン着用は最近まで禁止
「ズボンの政治史」クリスティーヌ・バール著 吉川佳英子ほか訳
「個人的なことは政治的なこと」というのはフェミニズムの基本的なテーゼのひとつだが、本書は、女性がズボンをはくかはかないかという極めて個人的なことがまさに政治的な問題であることを如実に示している。事実、フランスのパリ周辺の地域では、1800年に制定された女性のズボン着用禁止の警察条例が廃止されたのは、つい最近の2013年というから驚きだ。本書はフランス革命期から現在に至るまでに繰り広げられたズボン着用の権利をめざす女性たちの闘いの歴史を、ジェンダー、フェミニズムの視点から描いたもの。
フランス大革命では、社会のさまざまな価値観が変革したが服飾もそのひとつ。富裕層の特徴であるズボンのキュロットは脚をぴったり締め付けるものだったので、革命後はサン・キュロット(キュロットではない)というゆったりとしたズボンが普及した。しかし、それは男性に限ってのことで、女性の異性装に対する強い忌避感から先のズボン着用禁止令が公布される。例外として乗馬や軍服、病的な理由によるズボン着用が許可されただけだ。
それでも、体を締め付けるコルセット廃止の潮流、スポーツの流行、女性労働人口の増大などにより、女性たちの動きやすいズボンへの憧れは高まっていく。さらにジョルジュ・サンドやコレットら著名人による男装賛美、アメリカ生まれのブルマーの普及などもあって女性のズボン着用は徐々に普及していく。それが一気に開花するのは、1960年代末から始まるユニセックスの隆盛で、モード界からもサンローランなどのズボンが女性らしさを発揮するといった伝統に楔を打つ後押しが出てくる。
本書にはズボンをめぐる広範な資料と共に関連図版、女性の異性装者に関する珍しいエピソードも数多く収録されている。ズボンの百科全書的な趣で、ジェンダー規範の多様な展開を知る上でも貴重な報告になっている。 〈狸〉
(法政大学出版局 5940円)



















