安倍政権が企む“年金改悪”のゴールは「80歳」での支給開始
年金制度の将来に重大な影響を与えかねない動きが先週、明らかになった。安倍政権が骨子を発表した「高年齢者雇用安定法」の改正案だ。これによって浮き彫りになる年金改悪の全体像とは?
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高年齢者雇用安定法改正案の目玉は、企業に70歳まで働ける環境を整えるように求めていることだ。まずは努力義務となるが、これまでの経緯を振り返れば、いずれ70歳雇用が義務化されるのは間違いない。同法では、1986年の改正で60歳以上定年が努力義務となり、98年に60歳以上定年が義務化、その後は65歳までの雇用確保が2000年に努力義務となり、06年に一部義務化、13年に義務化されている。
雇用と年金はコインの裏表だ。70歳まで働けるようにすれば、現在は65歳の年金支給開始年齢も70歳に引き上げることができる。同時に希望者には、75歳まで繰り下げることができるようにする考えだ。
もっとも、安倍政権が思い描いているゴールは、そこではない。安倍首相が議長を務める「人生100年時代構想会議」の第1回(2017年9月)でキックオフのプレゼンテーションを任された英国ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授は、驚くべき発言をしている。
「70歳または80歳になるまで働くことを考えてみてください」
「80歳まで働くことを考えるとき、(中略)仕事を続ける理由は十分にあるのです」
グラットン教授に口火を切らせたのは、政権の意向にマッチした考えを持っているからだろう。だとすれば、雇用義務化の終着点は80歳。年金改悪のゴールも「80歳支給開始」ということになる。
人生100年時代なんて言っても、本当にそうなるのか、だれにも分からない。現状で日本人男性の平均寿命は81・09歳(2017年)である。これが一足飛びに100歳まで上がるとは考えにくい。多くの人が命が尽きる寸前まで働き、年金保険料を支払い続けた末に、何ももらえず亡くなるわけだ。
■小泉進次郎も旗振り役
小泉進次郎衆院議員ら自民党の若手も政権と足並みをそろえて援護射撃している。同議員が委員長代行を務める「2020年以降の経済財政構想小委員会」がまとめた「人生100年時代の社会保障へ」(16年10月)を見ると、〈年金受給開始年齢はより柔軟に選択できるようにする〉〈年金保険料はいつまでも納付できるようにする〉〈こうした年金改革を実施することで、高齢者がより長く働くことが当たり前になる〉〈受給開始の標準年齢の引き上げについての議論をただちに開始すべきである〉とある。
さらに、昨年5月にも同議員が中心となって「人生100年時代を生きる将来世代の未来を見据えて」を発表。〈「高齢者」といった年齢を前提とした定義・名称の在り方も含め、(中略)見直していくことが求められている〉〈定年のない「エイジフリー社会」を構築することが喫緊の課題〉とぶち上げた。高齢者という言葉を“亡き者”にしてまで、年寄りを酷使するつもりである。
「年金制度を維持するためには①支給開始時期を遅らせる②支給額を減らす③年金保険料を引き上げる――の3つしかありません。手品師でもほかに解決策はないだろうといわれてきました。それが着実に進められていくことになります」(政治評論家の有馬晴海氏)
まずは80歳支給開始を実現し、その後は支給額の引き下げと保険料の引き上げが行われる公算は大きい。
「人生100年時代」は明るい未来を示す言葉ではないのだ。