<66>勝新太郎は監督の領域に踏み込もうとして降ろされた
黒澤明監督の映画「影武者」で、勝新太郎は主役の座を降ろされた。その原因は、勝が監督の領域にまで踏み込むような振る舞いをしたことにあったという。
黒澤の助手を長年務めた野上照代は週刊新潮(2016年3月3日号)で、当時の経緯を明かしている。それによると勝は黒澤に、自らの演技を確認するためのカメラを回したいと申し出たという。それに対して黒澤は「余計なことをするんじゃない」と一喝。ブチ切れた勝は衣装もカツラも脱いで自分のワゴン車に籠城した。最終的に黒澤が車に乗り込み、「勝くんがそうならやめてもらうしかない」と言い放ったという。
勝は自身もメガホンを取って映画を作っている。そのため、相手が世界のクロサワであってもお構いなしで、演じるだけでは飽き足らず監督としても作品に関わろうとしたのかもしれない。
そもそも勝は、役者ではなく監督こそが自らの天職だと考えていたフシがあった。
「勝さんは本当に監督が好きなんだよね、やりたいんだよ。その映画に自分が出なくてもいいんだよって言うぐらいなんだからさ。でもまあ、興行面を考えれば自分も出演せざるを得ないけど、本心は裏方でいいんだって。一緒にいる時も、古今東西の映画について、あの作品はどうだったとか俺だったらこんなふうに撮ってるだとか、そんな話ばっかり。7割方は映画の話だったね。だからあの人といると、いろんな作品について詳しくなるんだよ」