10年ぶりに改訂された「首都直下地震被害想定」が我々に教えるもの

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 東京都の「首都直下地震被害想定」が10年ぶりに改定された。最悪シナリオのケースでは、前回に比べて死者数、建物倒壊数はともに約4割減少するという。その一方、タワーマンション被害のシミュレーションが追加されたり、いまだ改善に程遠い木造家屋密集地帯の問題は残されている。

 ◇  ◇  ◇

 都心南部を震源とするマグニチュード7.3の地震が発生したケースでは、想定死者数は最大6148人、建物被害は同19万4431棟。震源域の違いや測定方法の変遷があるため一概には言えないが、建物の耐震化が進んだことなどで死者数は10年前の想定に比べ3493人減(約36%減)となる。同じく揺れや液状化、土砂崩れによる全壊建物は約29%減の8万2199棟。火災による全壊は約40%減の最大11万2232棟となる予測だ。

「今回の想定を見ると、これまでの人的被害や建物被害など『計量的』な発表から、どんなことが起こり、どの点に憂慮すべきかといった『定性的』な説明に力点が移ったという印象です。火災関連死や帰宅困難者といったことにもページを割き、読み物としての要素も加わりました。資料全体は500ページに及ぶもので全てに目を通すことは難しいのですが、湾岸タワマンエリアや木造住宅密集エリアなど、自分が住んでいる地域の項目だけでも目を通すことをおすすめします」(備え・防災アドバイザーで「ソナエルワークス」代表の高荷智也氏)

 死者数は6148人でも、付随する負傷者数は9万3435人もいる。震災直後、「他県へ避難する」と考えていたとしても家族が動けない場合はどうするのか? その際の交通網はどうか? 一つ一つが想定外の連続になるだろう。

 では、都の被害想定にはどんなことが書かれているのか。

■地震発生直後

〈木造住宅密集市街地等では、住民等による初期消火活動や消防活動により多くが消火されるが、(中略)鎮火まで、24時間以上を要する。また、延焼火災が鎮火しても、数日後に停電していた地域から通電火災が発生する可能性がある〉

〈高層階では、消防隊による消火活動が困難であるため、スプリンクラーが故障すると、火災が拡大する可能性がある〉

 タワマンは耐火構造が取られているが、消火設備が働かない状況では完全ではない。

■江東デルタ地帯

〈液状化に伴うインフラやライフラインの被害、タンクの浮き上がり等に伴う通行支障等のため、地域内での生活が継続できなくなり、多くの人が地域外へ避難する。堤防及び水門の沈下、強い揺れによる破損に伴い、ゼロメートル地帯が浸水する可能性がある〉

■治安

〈店員等が避難して不在となった店舗で、物品の盗難等の被害が発生する〉

〈金融機関やコンビニ等のATM、商店等の金庫、自動販売機等からの現金等の窃取が多数発生する〉

〈避難所等において、物資の不足や、生活環境の劣悪さに起因し、避難者同士や、行政職員やボランティア等に対する暴力事件が発生する〉

〈デマの対象となった団体や企業、個人等へ批判等が殺到する可能性がある〉

 実際、東日本大震災では盗難事件が多発し、千葉県市原市のガス貯蔵施設を巡り、「爆発により有害物質が雨とともに降る」というデマがメールで拡散している。

最悪シナリオの町「京島2丁目」を歩いてみた

 実は、東京都は今回の首都直下の「被害想定」のほか、「地域危険度」も公表している。前者の被害想定が全体の被害なら、地域危険度は自分が住む町の危険度をピンポイントで指摘するもの。地域危険度の測定調査は1975年の第1回から、おおむね5年ごとに行われており、次回は2023年。第8回調査(18年)の総合危険度で最も危険な「5」と診断されたのは、全5117町丁目のうちの85町丁目。ただし、ワースト1位の荒川区町屋4丁目、同2位の足立区千住柳町、同5位の墨田区墨田3丁目など、レベル5の半分が荒川、足立、墨田の3区に偏っている。一方、23区内で最もリスクの少ないのは高級住宅街や官庁街に多く、千代田区霞が関1~2丁目、中央区晴海1~5丁目、港区虎ノ門4丁目などが並んでいる。

 ここでひとつ気になるのは、ワースト10に名指しされたエリアで、前回7回目調査(13年)から引き続きワースト10に残ってしまった町が7つもあること。軟弱地盤の問題もあるが、耐震化や避難経路の確保が進んでいないことが分かる。何がいけないのか、実際に「墨田区京島2丁目」周辺を歩いてみた。

「風情ある下町」そのものだが…

 ここは「総合危険度」こそ都内ワースト7位ながら、前回の20位から大きく順位を悪化させてしまっている。項目別では「建物倒壊危険度」がワースト1位(前回も1位)、「火災危険度」もワースト2位(同17位)だ。

 東京スカイツリー開業で曳舟一帯は再開発が続いているが、ほんの数分歩くと木造家屋が軒を連ねる地区にぶつかる。街歩きガイド風に言えば、「風情ある下町」そのもので、京島南公園では多くの子供たちが楽しそうに遊び、地元密着の総菜店も魅力に思える。狭い路地を進めば、玄関先にはどこも鉢植えが備えられ、すき間からわずかにのぞく太陽を求めて洗濯物の花も咲いていた。

道幅も狭く、路地は行き止まりも

 ただ、空襲を免れたため逆に区画整理が行き届かず、50メートルと真っすぐな道がない。道幅も狭く、路地裏の先は行き止まりという箇所がよくある。また、東武亀戸線が、押上地区とを分断しているので脇道自体が少なく、震災直後の交通は混乱するという感想を抱いた。バケツリレーの伝統こそ残っているとはいえ、果たしてどこまで効力を発揮するのか……。

「こうした救急車両が入れない箇所は都内に複数あり、街路整備がなかなか進みません。ただし、地震は必ずしも家の中にいる時に遭遇するわけではない。皆さんは、死者や負傷者の数に自分が入っていないと思い込んでいますが、帰宅難民で移動中に橋が崩落することだってあり得ます」(高荷智也氏)

 都内、いや日本に安全なところなどない。  

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