元NHK永田浩三氏 「安倍政権の局支配が着実に進んでいる」

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局内は昔に比べて息苦しくなっている

 菊池寛賞、芸術祭賞など、賞を総ナメにしたNHKの敏腕プロデューサーは、安倍首相らが「圧力」をかけたとされる「番組改変事件」のあと、NHKを去った。再び、注目を集めているのは、OBたちが連帯し、「籾井勝人会長辞任要求」の署名を突きつけたひとりだからだ。署名数は1527人。事務局によると、OB10人に1人が署名に応じた計算になるという。NHKでいま、何が起こっているのか?

――過去にもNHK批判はありましたが、1527人もの辞任要求は初めてではないでしょうか。

 専務理事経験者、放送文化研究所の元所長、放送支局長経験者、それから看板キャスターや有名なアナウンサーだった退職者が名を連ねました。OBたちは「このままでは安倍政権の『NHK支配』が進んでしまう。何とか歯止めをかけたい」という切なる願いで署名をしたのでしょう。署名集めの中心は、私より10年ほど先輩たちで構成する「放送を語る会」です。NHKの番組について精緻なウオッチングを続けており、「集団的自衛権を報じたNHKのニュースはおかしい」という批判の声を受けて、関連のニュース・情報番組を検証しました。

――公正、中立な報道ではなかった?

 集団的自衛権のニュースで、与党側の主張の時間が114分に対し、反論側が77秒という動かぬ証拠を突きつけたこともあります。籾井勝人会長は「個々の番組で公正、中立のバランスを取らないといけない」と言っていますが、100対1はどう見ても異常です。

――籾井会長就任以来、こうした動きが露骨になった印象を受けます。

 去年の秋、安倍首相の覚えめでたい経営委員4人が送り込まれ、その結果、籾井会長が就任した。籾井会長は就任当日の会見で「(国際放送で)政府が右と言ったら右を向く」などと発言し、批判が続出した。しかし半年以上経っても辞めないどころか、5月と7月の人事で会長にすり寄る管理職が重用された。今回の内閣改造でも高市早苗総務相は「領土問題を国際放送で伝えてもらう」と就任早々に発言しています。危険なサインで安倍政権の「NHK支配」が着実に進んでいるようにみえます。

■現役職員には言論の自由がない

――OBは声を上げていますが、現役の職員はそれでいいんですかね?

 NHKの現役職員には言論の自由がないのです。朝日新聞では、池上彰さんの記事をいったん載せないと判断した時、多くの現役記者がツイッタ―で「おかしい」と発信しました。朝日では世の中に自由に発言できる記者がいますが、NHKにはそういう制度はない。堀潤さんがNHKの原発報道批判をつぶやいたことで結果的にアナウンサーを辞めることになりましたが、NHKでは広報が了解しないと、職員が個人的に取材を受けることも、集会で一市民として発言することも許されていないのです。

――それは昔からですか?

 昔はもっとおおらかでしたね。50年代の水俣病事件では、チッソを相手に闘う患者支援団体「水俣病を告発する会」の先頭にNHK職員が立っていました。当時に比べると、今は非常に息苦しくなっています。

――番組制作に対する、上からの圧力はどうですか?

 NHKは戦争の旗振りをした反省から敗戦後、出直すことになりましたが、“政府のお先棒担ぎ”という体質は残りました。70年代にロッキード事件が起きた時もNHK会長が田中角栄元首相にご機嫌伺いに行ったものだから、職員は一斉に反発し、137万人の署名を2日で集めました。現場は経営に対して、その時々に闘ってきたんです。上層部も、途方もない取材の中で、真実に迫ろうとする現場の矜持は分かっているので、苦々しく思いながらも、どこかのところで現場を尊重してきたんです。それが崩れたのが慰安婦問題を取り上げた01年の番組改変事件です。

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