経済学者伊東光晴氏「聞きかじりだから安倍首相は嘘をつく」
86歳の老学者はこう吠えた
「エコノミストは理論を知らない。経済学者は現場を知らない」
かくて、世間はいまだにアベノミクスという幻想に浮かれるのである。京大名誉教授・伊東光春氏(86)の著書「アベノミクス批判 四本の矢を折る」(岩波書店)は、その幻想を徹底的にぶち壊し、現実をむき出しにするものだ。国民は目を覚まさなければならない。
――心筋梗塞で倒れられたのは2012年2月ですか? その後いかがですか?
東京医科歯科大に担ぎ込まれたから助かったんです。東大なら1%、医科歯科なら2%の確率とかで、その1%の差にひっかかった。脳の破壊を低温療法で防ぎ、この年ですから2時間半しか持たない手術を、4時間半やりました。
――にもかかわらず、その後の言論活動は極めて精力的ですね。
もう本は書けないと思ったんですよ。でも、あまりに経済学者が情けないんだ。だから、アベノミクスのごまかしを突けないんだよ。
――世間ではさまざまな専門家がアベノミクスを評価していますが。
エコノミストは理論を知らない。経済学者は現実を知らない。そんなのが新聞社で御用を務めている。理論も現実も知っている日本人はいない。
――アベノミクスには異次元緩和という第1の矢、国土強靭化を大義にした財政出動という第2の矢、成長戦略という第3の矢があるわけですが、全部ダメ?
これに戦後の政治体制の改変という第4の矢が隠されている。アベノミクスはすべてを壊そうとしています。
――まず、第1の矢ですが。
本質的には日銀の国債引き受けです。それをやらないと、予算が組めない。これ以上国債を出すと、国債金利が上がってしまうからです。金利が1%上がれば、予算編成ができなくなる。財務省の役人のクビが飛んじゃう。そこで言うことを聞く人物を日銀総裁にしたのです。
――異次元緩和で投資や消費が増えるもくろみでしたが、うまくいっていませんね。
根拠なき政策効果への期待です。日銀の岩田規久男副総裁は異次元緩和をすると、人々は物価が上がるだろうと考え、設備投資が増加し、景気浮揚の力が働くとしていますが、人々の期待は多様なのです。物価が上がれば、生活が困ると考え、生活を切り詰める人もいるかもしれない。金利が低くなったところで設備投資をするかというと、過去に経済企画庁の企業行動調査は否定的な調査結果を出しています。
――しかし、株価が上がったことで、人々は幻想に惑わされている。
安倍首相は政権に就いた時に、「15年間の長期の不況からの脱却」と言ったでしょう。これにカチンときました。この前提からしてウソだからです。汚染水コントロール発言もそうでしたが、彼は平気でウソをつく。なぜだかわかりますか? すべてが聞きかじりだからですよ。学者の間では2002年からリーマン・ショックまでは好景気だったのは常識です。15年不況と言っていたのは岩田氏だけですよ。それに日本株が上がったのは政権交代やアベノミクスとは全く関係がないメカニズムが働いたからです。外国人投資家には分散投資に代表される投資原則があって、米国枠、EU枠が決まっている。米国株が上がり、その枠を超えれば、その分は第三国、つまり日本市場に流れてくる。分岐点は2012年6月で、日本株の上昇は野田政権が続いても起こりましたよ。
――著書では財政出動の第2の矢もできっこない空手形と書かれていますね。10年で200兆円、1年間で20兆円の国土強靭化政策ですが、国債の累積状況からみてもできる余地はないと。
それなのに、人気取りで法人減税とか言い出すんだからね。税収の減少と支出の上昇の折れ線グラフを「ワニの口」と言いますが、財務省の役人も開いた口がふさがらないと言いたいでしょう。