「『父』という異性」下重暁子著
父は画家になりたかったのだが、代々軍人の家の長男だったためそれは許されず、職業軍人となった。権威の象徴であった父が敗戦で公職追放となり、慣れぬ仕事に手を出して失敗する姿は、著者には落ちた偶像と映った。父の死後、家を整理していたとき、父が描いた「あぶな絵」の模写が出てきた。著者は、大学に職を得るまで、父が生活のためにそういう絵を描いていたことを初めて知った。父が誇りをかなぐり捨てて、こんな形で絵と対峙しなければならなかった、その心情を思ってたまらない気持ちになった。
父に反抗し続けた娘が父との相克を見つめたエッセー。(青萠堂 1000円+税)