著者のコラム一覧
大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

劇場版「鬼滅の刃」大かぶり!興収200億円“射程圏内”の訳

公開日: 更新日:

 歴史的な大ヒットスタートを切った「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」だが、今やどこまで数字を伸ばすかに注目が集まりつつある。その判断は現時点ではなかなか難しいところがある。それというのも、ここまで多くの話題を提供して公開された作品はイベント・ムービーといって、スタート時に興行が大かぶりする(動員が集中する)ことがよくあるからだ。

 アニメーションでいえば、「妖怪ウォッチ」1作目(2014年)の盛り上がりを思い出す。最高潮のブームのなかで公開を迎え、初週の土日で興収16億円を記録し、当然、100億円突破間違いなしとなった。だが、最終的には78億円にとどまった。

 本作もずぬけたスケールをもつイベント・ムービーといっていいだろう。スタートの土日だけを見れば、「妖怪ウォッチ」1作目の2倍を超える34億円を記録した。この時点で200億円が見込まれるわけだが、そのようになるのかどうか。

 公開3日間だけの数字では見通せなかった。果たしてスタート時の大かぶりをどう見るか。すでに知られるように尋常ではない上映回数が敷かれ、その巨大な座席キャパシティーが満席になる回も続出した。早く見たい膨大な数の観客たちが詰めかけたわけだが、この状態がいつまでも続くことはないだろう。その落ち方の見極めが難しい。

 ただ、何人かの映画関係者に聞くと「200億円は大丈夫」という声が増えてきた。この平日の数字がなかなか健闘しており、10月21日時点で65億円を超えた。ここから18日までのスタート3日間(金土日)の46億2000万円を引くと、直近の平日3日間でおよそ19億円を記録したことになる。平日の一日平均で6億円超えを記録する作品はめったにない。単純にいえば、極端には落ちていないのである。このような推移を見て、200億円を確実視する声があがってきても不思議ではない。

興収200億円超えは宮崎作品、新海作品、アナ雪のみ

 歴代アニメーションで200億円を超えたのは、邦画では宮崎駿監督作品(2本、リバイバル上映含む)と新海誠作品(1本)のみ。洋画では「アナと雪の女王」の1本しかないが、「鬼滅の刃」は3作品と違う大きな点がある。映画化以前に、コミック原作、テレビアニメが絶大な人気を得ていたことだ。

 人気原作から劇場アニメ化された作品は多いが、それでも初公開時に100億円を超えた作品は1本もない。それが、200億円さえも視野に入ってきた。この点においてもまさに歴史的といっていいかもしれない。さきにスケールの大きなイベント・ムービーと書いたがその言い方では収まりがつかなくなってきた。

 宮崎作品、新海作品は息の長い興行に特徴がある。作品の質そのものが広範囲な口コミによって広がり続け、クオリティー・ムービーとして記録的な数字を上げていったが、「鬼滅の刃」の凄さは、強力なイベント・ムービーにして圧倒的なクオリティー・ムービーでもあることだと思う。

 高い評価を誇り、リピーターも出始めている。ここが今後の興行の一つのポイントとなろう。幅広い世代、年齢層をまたいで関心がもたれていることは改めていうまでもない。メディアの露出もまた、尋常ではないくらい多い。「鬼滅の刃」を全く知らなくても映画館に足を運んでみようという人が、少なからず出てくることだろう。

■映画界は洋画の話題作待ち

 一つ、いっておきたいことがある。「これでコロナ禍で不況が続いた映画界が復活した」というような論調には少し疑問をもつ。多くの配給会社、ミニシアターなどは依然として厳しい状況であるのは変わりない。映画興行は、邦画と洋画の両輪があってこそ本来の状態に戻る。公開延期が相次ぐ今の洋画の現状ではまだまだ厳しい状況が続くとみる。映画界は「洋画の話題作待ち」なのである。

 とにもかくにも「鬼滅の刃」現象は映画界のみならず、日本中の多くの人たちに勇気、活力を与えたことは間違いない。その源泉には紛れもなく映画館で見る映画の力があったと思う。これを機に映画館が改めて見直されてほしい。切に、そう思うのである。

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