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森暢平成城大学文芸学部教授

元毎日新聞記者。著書に『天皇家の財布』(新潮社)、『近代皇室の社会史』(吉川弘文館)、『皇后四代の歴史──昭憲皇太后から美智子皇后まで』(吉川弘文館、共著)、『「地域」から見える天皇制』(吉田書店、共著)などがある。

小室眞子さん報道は「視聴者の興味あることをやっただけ」 フジ「バイキング」坂上忍氏の呆れた開き直り

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 いわゆる「眞子さま問題」も、10月26日の婚姻届提出と記者会見でひと区切りついた。私はこの問題について、興味本位の放送をしてきたテレビ局の情報番組の責任は大きいと思っている。ところが、フジテレビ「バイキングMORE」MCの坂上忍氏は同日の放送で、「報じる側からしたら興味あることやっているだけなんだよね」と発言。視聴率が取れる放送をすることが「罪ですか」と、開き直りとも取れる発言をした。

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「バイキング」はこれまで、各局の情報番組の中で小室圭さんに最も厳しいコメンテーターを揃えて、辛辣な批評をしてきた。

 例えば、今年4月28日、お笑いコンビ「おぎやはぎ」の小木博明氏は、もし自分の娘の交際相手が小室さんだった場合、結婚を許さないと述べる文脈で、次のようにコメントしている。

「お金もねえ、これから留学して弁護士の資格も取ってねえ奴が『結婚してください』って俺に言ってくる時点でおかしいんだよ」、「これから留学して、資格も持ってない、お金も借りてる状態でしょ? 借りてるというか金銭トラブルがある状態で、何も成しえていない人間が(娘を)幸せにできるわけないと思わない?」

 小室さんの人格否定につながりかねない発言である。これは一例に過ぎない。

「バイキング」は小室さんをこのように揶揄し、金銭トラブルが解決しないことの責を小室さん母子に一方的に負わせてきた。

■眞子さん発言への批判

 本来はおめでたいはずの結婚の日に、眞子さんの発言について坂上氏は、

「それ言うんだったら、結構なマスコミ批判ですよ」「結構な衝撃でしたけど」

「結構な鬱憤が溜まってたっていうのはちょっと伝わってきたけどね」

「周りに、もうちょっとアドバイスできる方とか、代弁してくださる方とかっていうのが、もしも、いらっしゃったら……」「お2人だけの世界に埋没してる感が、改めて見たらより感じる」

 と、批判的なコメントを繰り返した。

 坂上氏の発言で聞き捨てならなかったのは、テレビが「眞子さま問題」を扱ってきたのは、番組に関心を寄せる人がいたからだと述べた次のくだりだ。

「(解決を長引かせてしまった小室さん側の対応は)一番引っ張られるやり方なわけ。そうすると、メディアは離さないですよ。じゃあ、離さないメディアが罪なんですかって言ったら、俺は何かテレビの回し者的なような聞こえ方になっちゃうかもしれないけど、国民の関心事ね。じゃ、それが視聴率っていうのに換算するとするじゃない。『視聴率がいいからあの番組、あのネタばっかりやりやがって』っていう人いるんだけれども、国民の関心あるものをメディアが取り上げるって、罪ですかって僕は思うんです。いち視聴者としてもね。だから、いち視聴者として見たら、『またやってるよ』とたぶん思ってる。ただ、報じる側からしたら、興味あることやってるだけなんだよね。そこもやっぱり議論あると思います。メディアを叩くのは簡単だよ」

 あきれた開き直りにしか聞こえない。例えば、小室さんの髪型は、視聴者が下世話な関心を抱きがちな話題である。

 しかし、NHKと民放連がつくった放送倫理基本綱領には、「放送は、いまや国民にとって最も身近なメディアであり、その社会的影響力はきわめて大きい。われわれはこのことを自覚し、放送が国民生活、とりわけ児童・青少年および、家庭に与える影響を考慮して(略)国民の生活を豊かにするようにつとめる」とある。

 関心があるから何でも報じてよいわけではなく、社会的な影響力を考慮して、品位や常識が求められているのである。

幸せを思うからこその余計なお世話?

 例えば、見た目を基準に人を判断するような放送をしてはいけないことは当然である。しかし、「バイキング」は小室さんの「チョンマゲ」をさんざんに揶揄してきた。

「バイキング」は、小室さんの母親という私人のトラブルを延々と報じてきた。結婚直前という段階においても、なお解決しなかったことの責が小室さんだけにあるかのようなコメントを流している。

 民放連の放送基準には、「個人のプライバシーや自由を不当に侵したり、名誉を傷つけたりしないように注意する」とある。小室さん母子のプライバシーや名誉を侵害することを正当化する、公共性・公益性がある放送であったのだろうか。

 金銭トラブルのような微妙な問題に対して、事情に詳しくないタレントが好き勝手なおしゃべりをするワイドショーの形が相応しかったかも疑問が残る。「バイキング」10月25日放送では、フリーアナウンサーの高橋真麻氏が次のように述べている。

「われわれも今日までさんざんいろんな報道してきて、前も言いましたけど、よかれと思ってというか、(眞子さまが)幸せになるといいな、もっと国民の皆さまが喜んでくれたらいいな、そのためにはどうしたらいいんだろうかと、(これは)余計なお世話ですけれど……。コメンテーターって、だいたい余計なお世話じゃないですか。よくネットとかで『そんなの余計なお世話だ』と書かれるんですけれど。そんなのこっちは百も承知で、余計なお世話隊としてコメントしてんですから。だから、それを込みで、皆さん、視聴者の方に分かってほしいんですけど……」

 テレビの影響力を考えれば無責任な発言である。小室さんへの侮辱を繰り返してきたこの番組も、インターネットでの誹謗中傷を誘発したのではないだろうか。なぜなら、コメンテーターの発言がネット記事となって紹介され、それに同調する形で中傷コメントが増えているのは、間違いないからだ。コメンテーターの「余計なお世話」だから、免責されるわけではない。

「バイキング」は10月1日に眞子さんの「複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)」が発表されて以来、この問題を大きく扱うことを控えてきた。しかし、結婚直前になると、再び、小室さんへの否定的な内容を長い尺で放送し始めた。その上でのMC坂上氏の開き直りである。

 番組自体というより、フジテレビの放送倫理の問題であるように感じた。

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