「ブラックドッグ」繁栄に取り残された中国の町で生きる前科者と野犬の絆

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主人公のランは私たちの周りにも生存している

 舞台はゴビ砂漠にぽつんと広がる灰色の街。あちこちに古びた建物が建ち並ぶ光景はさながらゴーストタウンだ。そこに住む大人も若者もみな一様に明日への希望をなくし、精神的な虚無の中でその日暮らしを続けている。

 2008年は中国が高度経済成長で沸き、日本人がライバル国として意識し始めた頃だったと記憶している。劇中の町での有線放送は、あと50日に迫った北京五輪を国威発揚として称賛し、人々に理解と協力をアピール。建物を取り壊す区画整理は明るい未来を築く事業として宣伝される。こうした前向きなアナウンスとは裏腹に人々の表情は沈んでいる。

 街を走る貨物列車の物憂い汽笛が繰り返し流れ、繁栄に置き去りにされた人間の虚しさとして迫ってくる。うらぶれたサーカスの一団と今の暮らしに満足できない美しき踊り子、干からびた動物園でひもじそうに生きるトラ、寒風が吹き抜ける砂漠の憂鬱、ランを乗せて疾走するバイク、そして人々を取り囲むように無言で生息する野犬の群れ。どれもが一葉の絵画のようにスクリーンを覆いつくす。これらの映像を見るだけでも本作を鑑賞する価値ありだ。

 メガホンを取ったグァン・フー監督はこう述べている。

「本作は多くの映画が見落とすようなものにレンズを向け、尊厳を取り戻そうとあがく青年と街を主人公に据えました。こうしたことは、都会と離れた辺境の地域の未来にとって重要だと確信しています。彼らは少数派かもしれませんが、私たちの仲間です。数年後この映画を振り返って価値を見いだせたとしたらそれこそが映画の真価と言えるでしょう」

 古い町が人口流出を防ぎきれずに廃虚化し、そこにとどまった人々の心を闇の無力化に塗りこめるのは我ら日本も同じ。主人公のランは私たちの周りにも生存している。この映画が描き出すニヒリズムは明日の日本なのである。(配給:クロックワークス)

(文=森田健司)

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