著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

タイムトラベル専門書店 utouto(板橋・志村坂上)古い門をくぐった先に現れる築110年の蔵を改装した店舗

公開日: 更新日:

 志村坂上駅すぐのところに、なんと「一里塚」が残っていた。日本橋から約12キロ。中山道3番目の一里塚だそう。その名も「一里塚通り」を東へ。

 普通の住宅街だが、前方に楠がどっしりと茂っているのが見えた。近づくと、時代劇に出てきそうな「薬医門」があるじゃない。楠は、推定400坪の名主屋敷の庭で年を刻んでいたのだ。いやはや、敷地内にある唐破風づくりの母屋も、築110年の2つの蔵も「すごい」のひとこと。

「先代がお亡くなりになり、相続したご親戚が『残そう』と英断して整備なさったんです。知人に紹介されて初めて来たとき、門をくぐるやタイムトラベルした感覚に陥り、もうここでやるしかないと(笑)」

 と、藤岡みなみさん。

 ん? お名前に見覚えが……。そう、藤岡さんは「パンダのうんこはいい匂い」「超個人的時間旅行」などで知られるエッセイストだ。

 6年間の「移動書店」を経て、昨年11月から敷地内の“東ノ蔵”で、絵本作家の高校同級生らと3人で「タイムトラベル専門書店utouto」なるものを運営されていたのだ。

時代を問わず『その時代に入り込める本』がコンセプト

──タイムトラベルって、SFの本の世界です?

「いえいえ。私は縄文時代がすごく好きなんですが、時代を問わず『その時代に入り込める本』がコンセプトです。歴史、未来科学、“時間とは何か”みたいな哲学、さらに個人の生きた時間を追体験できる日記など広義に」

 ははー、なるほど。ミヒャエル・エンデの「モモ」を見つけた。時間泥棒に奪われた時間を取り戻す児童文学だ。「日常をうたう 8月15日の日記集」と目が合う。「“戦争終わったよ”と聞いた人たちの1945年の日記と、現代の人たちの日記の両方が編まれているんですね」と藤岡さん。

 はたまた「タイム・シェルター」「時の家」「時間移民」「ほんのむこうへ」……。フィクションもフィクション以外も絵本も、推定800冊が分け隔てなく並んでいる。あら、「地球の歩き方 昭和レトロ」なんてのも出ていたんだ。

 長年使い込まれてきた柱、梁、調度品などから木の呼吸が聞こえ、同じ空間にカフェ(別経営)もあるので、コーヒーの香りも漂う中に身を置く心地よさよ。出合った本を次々と開いてみる。ふむふむ。飽きない“遊び”の時間を提供してくれる小さな本屋さんだ。

◆板橋区小豆沢2-23-4 板橋ととと 東ノ蔵/都営三田線志村坂上駅A1出口から徒歩4分/午前10時~午後5時、火・水曜休み

ウチの推し本

「リプレイ」ケン・グリムウッド著 杉山高之訳新潮文庫 1045円

「40年ほど前に書かれた物語で、私は何度読んだか分からない(笑)。“ループもの”というんでしょうか。主人公は40代の男性。心臓発作で死亡して、次の瞬間に、生きていた記憶を持ったまま大学生に戻って、人生をリベンジ。競馬で勝ったりして大金持ちになるんですが、でも幸せじゃなかったり。読み終わった後、自分の人生が一回でよかったと思えるような、時間の哲学を感じましたね」

■本コラム待望の書籍化!「本屋百景 独立系書籍をめぐりめぐる」好評発売中!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    山田涼介が「令和最強アイドル」と評されるワケ…主演ドラマ「一次元の挿し木」は玉森裕太を三歩リード

  2. 2

    沈黙貫く橋本愛vs佐藤二朗「週刊新潮」で反論の泥沼化…SNS連投で"自滅"を心配する声も

  3. 3

    『ひよっこ』再放送記念、神回「ビートルズがやって来る」再録

  4. 4

    骨折で入院中ですが…ブラジルに惜敗した森保Jを巡る一部炎上報道で心が痛い

  5. 5

    萩本欽一〈24〉相方の坂上二郎さんとは「遊ばない・食事しない・夢を語らない」を徹底した事情

  1. 6

    男子バスケ日本代表に激震、ホーバス監督“解任”の真相…過去には八村塁と確執も 

  2. 7

    孤立深まる高市首相…国会10日ぶり正常化でも続く“包囲網” 与党内からも反発の声噴出の自業自得

  3. 8

    佐藤二朗騒動の余波!「福田組」の長澤まさみへの“ハラスメント”舞台挨拶の悪ノリ動画が再注目…女性視聴者は嫌悪

  4. 9

    趣里が7月期テレ朝ドラマで出産後初主演 続く水谷家との「蜜月」で三山凌輝にも復活説

  5. 10

    村上誠一郎前総務相が高市政権バッサリ!「これが本当に保守政治なのか」…突きつけた自民「立党宣言」との乖離