著者のコラム一覧
スージー鈴木音楽評論家

1966年、大阪府東大阪市生まれ。昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966-2023」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。

『ロング・トール・サリー』『アイム・ダウン』ロック少年を啓蒙した1000人に1人のハイトーン・シャウト

公開日: 更新日:

アルバム『パスト・マスターズvol.1』(1988年3月7日発売)⑥

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■『ロング・トール・サリー』

 今回はアルバム『パスト・マスターズvol.1』の中から、ポールの歌うロックンロール2曲。

 まずは『ロング・トール・サリー』。これが現在の正式タイトルらしいが、私たちにとっては「のっぽのサリー」だ。

↓………ここから続き………

 とにかくポールの声が高い高い。歌い出しがいきなり上のB♭。この音程を地声で出せる男性は10人に1人ぐらいだろう。その中で、ポールほどの迫力を持って歌えるのは100人に1人ぐらい。つまり「1000人に1人のハイトーン・シャウト」になる。

 ビートルズには珍しくコーラスが入っていない。というわけで、この曲は、ポールのハイトーン・シャウトに集中して楽しむ曲と言っていい。


 ちなみにリズムは『ロール・オーバー・ベートーヴェン』同様、「♪ツツタツ・ツツタツ」というエイトビートと「♪ツッツタッツ・ツッツタッツ」というスイングの中間で、泥くさい感じが残っている。しかし……。

■アイム・ダウン

『ロング・トール・サリー』のリズムと比べて、こちらはかなり「♪ツツタツ・ツツタツ」というエイトビートに寄っていて、泥くささが洗浄され、かなり洗練した印象を受ける。

 リズムも含めて「『ロング・トール・サリー』をビートルズ風に洗練させたらどうなるか」という試みのような曲だ。

 もちろんポールが(またかなりハイトーンの)リードボーカルなのだが、今回は、ジョンとジョージのバックコーラスもちゃんと入っていて、さらにコード進行も少しだけ凝っている。


 というこの曲。シングル『ヘルプ!』のB面曲として知られる。また来日公演のラストナンバーとして、日本ではさらによく知られることとなった。

 来日公演の演奏は、残っている映像を見る限り、全体的に精彩を欠いているのだが、日本武道館のかなり貧弱な演奏環境からようやく解放される喜びもあったのか、ラストナンバーのこの曲は、なかなかに躍動的なパフォーマンスになっている。

 とにかく、これら『ロング・トール・サリー』『アイム・ダウン』は、世界のロック少年に、ハイトーンボーカルの快感を啓蒙したのだった。

 そして、この2曲リリースの少し後、ビートルズに憧れて広島から横浜に出てきた、あのロック少年は、自分の声の魅力にこう気付くのである。

──「その頃、マジに、ポールと同じくらいの高さのキーが出てる。太い声で、あの高音がバックバク出るわけよ。たまんないよ」(『成りあがり』) 

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【連載】スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ

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