帝釈天から始まる「TOKYOタクシー」は「男はつらいよ」ファンが歩んだ歴史をかみしめる作品

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 それだけでなく、「TOKYOタクシー」は山田洋次作品の中でも、特別な意味を持つ映画と言える。元々この企画は山田監督の、「もう一度倍賞千恵子さんと映画を作りたい」という願いから始まっている。それに合う題材を探して、「パリタクシー」のリメークに行きついたのだ。ここでは壮絶な過去を持つ、アメリカ帰りの老婦人という、「男はつらいよ」シリーズで演じたさくらのような、下町でけなげに生きる女性とはまったく違ったキャラクターに、彼女を挑戦させている。しかも、その老婦人がタクシーに乗車するのは柴又の帝釈天・正門前。これは「男はつらいよ」ファンならお馴染みだが、あのシリーズでは冒頭、寅さんの夢の場面から始まり、それが終わるとさくらが帝釈天の正門に自転車で来るところから物語がスタートする。その正門と別れを告げる場面から、今回の作品は始まるのだ。

 劇中ではその場に、老婦人の世話をしてきた笹野高史演じる司法書士がいて、彼が「またお会いしましょうね」というと、倍賞の老婦人は「無理よ、これで最後」を返すのだが、撮影時、テストで倍賞が笹野に温かみを込めて言葉を返すと、山田監督はもっとドライに拒絶するように言ってほしいと要求した。そのやりとりをタクシーの運転席で聴いていた木村は、この帝釈天の別れには特別な意味があるように感じたという。「男はつらいよ」の定番となっている場所に対する、倍賞の決別の言葉。それを言わせた山田監督の思い。そのことも思い合わせると、これは単なるリメーク作品ではなく、山田監督と倍賞千恵子が歩んできた歴史を背負った、ファンには見逃せない一本なのである。

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