無知と傍観のツケを払うのは私たち──PFAS(ピーファス)汚染取材

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「灰色の鎖 PFAS汚染列島」諸永裕司著

 日本の飲み水は安全、という神話が崩れかけている。目に見えない新たな公害で日本列島が汚染されているというのだ。原因はPFAS(ピーファス)と総称される有機フッ素化合物。水も油もはじき、熱に強く、無色無味無臭。ハンバーガーの包装紙やピザの箱、焦げない調理器具といった身近な製品をはじめ、半導体などの製造工程や航空機火災を消すための泡消火剤にも使われている。

 炭素とフッ素が鎖のようにくっついて離れないため、地下水や土に混じると分解されずに蓄積される。ヒトの体に取り込まれても排出されない。便利な化学物質は、健康をおびやかす公害物質でもあるのだが、日本ではあまり認知されていない。

 著者がPFASの取材を始めたのは2017年。

 沖縄の嘉手納基地が消火訓練で大量に放出する化学物質が水源を汚染し、健康被害が出ていることを知ったのがきっかけだった。取材を重ねると、汚染は米軍基地だけでなく、自衛隊、工場、産廃処分場など、全国に広がり、健康被害が起きていた。がん、先天異常、死産、流産、心疾患、肺疾患……。だが、水俣病やイタイイタイ病と違ってPFAS病と呼べるような特異な症状が見られず、汚染と被害の因果関係を証明するのが難しい。それでも欧米ではPFASを排出した企業や軍隊の責任が問われ、周辺住民への賠償も行われている。しかし日本の規制は緩いまま。

 著者は、岡山県吉備中央町、東京の多摩地区、岐阜、沖縄など汚染地区を歩き、汚染による被害が濃厚に疑われる人たちに会い、この問題と関わりを持つ多くの科学者に話を聞いた。食品安全委員会によるリスク評価の際の参照論文差し替えや密室での決定など、嘘とごまかしの実態にまで踏み込んでいる。

 取材を続ける中で見えてきたのは、この国をむしばんでいる灰色の鎖のような社会構造だった。「経済優先」という病は重く、だれかの命が失われなければ行政は動かない。水俣病の教訓を忘れ、同じことを繰り返していると著者は警鐘を鳴らす。PFAS汚染は他人事ではない。無知と傍観のツケを払うことになるのは私たちなのだ。 (文藝春秋 2090円)

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