プーチン大統領が企む残虐行為の「証拠隠滅」…激戦地ハルキウに“片道切符”で虐殺部隊を再投入
ウクライナの首都キーウ周辺で、プーチン大統領が送り込んだロシア軍による住民への残虐行為が次々と明らかになっている。キーウ北方のボロディアンカでは、410人もの住民が犠牲になった「ブチャ虐殺」を上回る被害が報告されている。プーチン大統領は“証拠隠滅”に乗り出したという。
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ウクライナ国防省は4日、「ブチャ虐殺」に関わったとされる駐留部隊(第64自動車化狙撃旅団)の名簿を公開。ブチャで「戦争犯罪に直接関与した」とされるロシア兵約1600人の氏名や生年月日、軍隊での階級やパスポート情報などを公表し、「全ての戦争犯罪者は裁判にかけられ、責任を負わされる」と糾弾した。
ブチャ住民に取材したAFP通信によると、占領された当初は大部分のロシア兵が若者だったが、2週間後には40歳以上とみられる年上の兵士が現れ「誰も彼も虐待し、それから大量虐殺が始まった」という。特にロシア連邦保安局(FSB)の職員については「非常に荒っぽかった」と証言している。
住民が見た年長の兵士が1600人の“指名手配リスト”に入っているかは不明だが、「虐殺部隊」は戦争犯罪者として国際法廷で証言を迫られる可能性が高い。そこで浮上しているのが、ロシアによる“証拠隠滅”だ。
ウクライナ国防省は5日、ロシア国内に引き揚げた第64自動車化狙撃旅団がウクライナの激戦地に再投入されると指摘。旅団は6日までにロシアに輸送され、わずか2日間の休息後、激戦地のハルキウ方面に再投入される可能性があるという。
同省は〈ブチャで虐殺を行った部隊がウクライナに戻ってくる〉〈他の地域でも同様の虐殺行為が行われる〉と警鐘を鳴らす一方、あまりに拙速な再投入の狙いについて、こう分析している。
〈都合の悪い目撃者の速やかな「処理」である。すなわち、(第64旅団の部隊が)法廷で証言できないように、生き残る望みのない前線に再投入するのだ〉
「拒否したら軍法会議にかける」と脅迫
虐殺行為について証言をさせないよう、死地に追いやって“証拠隠滅”を図る魂胆がロシア側にあるというのだ。しかもウクライナ国防省によれば、〈ブチャでの犯罪行為に責任を感じている兵士はウクライナへ戻ることに反対しているが、ロシア司令部はその訴えを無視し、戦闘を拒否した場合は軍法会議にかけると脅している〉という。
いくら戦争犯罪の疑いがあるとはいえ、「死んでこい」と口封じを試みれば、ロシア国内のプーチン批判はますます過熱するに違いない。筑波大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)がこう言う。
「最前線で残虐行為を働いているのは、チェチェン共和国の『カディロフツィ』や、傭兵としてリクルートされたシリア兵の可能性もあります。ロシア兵を再投入するとなると、ロシア国内の『兵士の母の会』が黙っておらず、反戦ムードがますます高まること必至です。したがって、プーチン大統領としてもチェチェン人やシリア人を『身代わり』にしたいと考えているはず。ロシア国内は経済制裁によって、紙類や食料品が不足し始めています。5日に開かれた農業関連の会合でプーチン大統領は、いつもの口調の1.5倍くらいの早口で話し、イラ立った様子でした。国内からの批判にかなり過敏になっている印象です」
「虐殺部隊」の違法行為を死をもって隠蔽しようとは、すさまじい冷血非道ぶりである。この戦争は、日を追うごとに醜悪になっている。
ブチャ大量虐殺の実行部隊特定へ
米CNNテレビは6日、キーウ近郊ブチャで民間人とみられる多数の遺体が確認されたことについて、米情報機関が殺害を主導したロシアの実行部隊の特定を進めていると報じた。
米当局者は、実行部隊の特定は「極めて優先度が高い」と強調。既に実行部隊を「絞り込んでいる」という。
情報機関は、殺害が起きた際、複数のロシア軍部隊や組織がブチャに入っていた可能性を分析。ブチャにいる部隊が入れ替わるタイミングで一部の殺害が行われたかどうかも検証するという。
一方、ウクライナ最高会議(国会)の人権オンブズマン、リュドミラ・デニソワ氏は5日にブチャを訪れ、長さ約14メートルの巨大な集団墓地に「150~300体の遺体が埋められていた」と証言。「全ての犠牲者の死の状況を明らかにする」と強調した。また、ウクライナのベネディクトワ検事総長は6日、ロシア軍による「戦争犯罪」は5000件に上るとし、捜査していると発表した。