二田一比古
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二田一比古ジャーナリスト

福岡県出身。大学卒業後、「微笑」(祥伝社)の記者に。その後、「Emma」「週刊文春」(ともに文芸春秋)をはじめ、多くの週刊誌、スポーツ新聞で芸能分野を中心に幅広く取材、執筆を続ける。フリー転身後はコメンテーターとしても活躍。

「阪神・淡路大震災」前日まで芦屋で芸能の取材をしていた

公開日: 更新日:

 震災の3日後、芦屋が気になって自ら震災の取材を申し出た。新幹線は京都まで動いていた。京都から在来線が尼崎まで走っていた。尼崎で大阪在住のカメラマンと合流し、彼の車で取材に回った。行き先は芦屋方面。道路はどこもがれきや家具などで埋め尽くされ、まともに走れない。終戦直後のような光景だった。

 4時間近くかかっただろうか、ようやく芦屋に到着。数日前まで取材した芦屋界隈を歩いた。がれきなどほとんどない。山の上にある高級邸宅地区は壊れている家も塀もなく、日常と変わらない光景。犬を散歩させていた老人に話を聞くと、「特に被害はなかった」と拍子抜けのコメント。

 マンション暮らしのサラリーマンは、「前日、朝4時まで飲んでいて爆睡。揺れも気づかず、起きたらお腹の上に本棚が倒れていたけど、頭の上でなかったので助かった」と話していた。

 その後、ひとりで神戸に入った。三宮の神社の近くにあったホテルに、「素泊まり」を条件に泊まれた。他に宿泊者がいないのか館内は薄暗く、不気味なくらい静まり返っていた。

 困ったのは食事だ。普段は賑わう三宮の飲食街も、建物は傾き路地裏はがれきの山。歩いている人もほとんどいない。飲食店など営業しているはずもないと思っていたなか、道路のど真ん中で営業していたのが屋台のおでん屋だった。寒さもしのげると椅子に座り、ワンカップ酒とおでんを頼んだ。角刈り頭に鉢巻きの店主と2人きり。少し不安を覚えたが、こういう時はマスコミの人間であることを明かすことで自身をガードしている。早々に退散したが、値段は驚きだった。震災直後の緊急事態。飲んで食べて温まれただけでも「ありがたい」と思うことにした。

 翌日は大物芸人の家を回ったが、倒壊など被害に遭った家もなかった。結局、震災雑記に終わったが、私にとっては貴重な体験だった。記者をしていなければできないことだったと思う。 (つづく)

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