帰省は孝行のチャンス! 実家の老親にふるまいたい息子の手料理

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 年の瀬が近づくと、ふるさとの風景が恋しくなる。都会で暮らす人々にとって、年末年始は家族との再会の時。特に高齢の親を持つ世代にとっては、帰省はただの行事ではなく、親孝行の貴重な機会でもある。

 東京都内に暮らす65歳の会社員・小島勝彦さん(仮名)もそのひとりだ。今年90歳を迎えた母親の京子さん(仮名)は、昨年夫を亡くし、今はひとりで九州の小さな町に暮らしている。ふくよかな体型の京子さんは、数年前から膝の痛みを訴えるようになり、台所に立つのも億劫になってきた。かつては家族のために毎日手料理をふるまっていた彼女だが、今では食事も簡単なもので済ませがちだという。

「母が料理の意欲を失ったと聞いて、胸が痛みました」と勝彦さん。普段は妻に料理を任せきりだが、いつか母のために食事を作ろうと昨年から台所に立つ決意をした。

「栄養が不足している可能性もあります。第一母に、もう一度“食べる喜び”を感じてもらいたいんです」

 とはいえ、料理ははじめたばかり。そんな複雑な料理を作る自信はない。どうしたものか?

 小島さんと同じ思いの男性もいるはずだ。作り方はネット動画などで調べられるが、問題は献立だ。そこで愛国学園短期大学家政科の古谷彰子准教授にアドバイスしてもらった。

「中高年の息子さんが高齢な老親にふるまう手料理のポイントは、高齢者が不足しやすい栄養素を“より良い時間帯”に合わせて補うためのやさしい食事です。朝にはDHAやEPAを含む魚を使ったタンパク質豊富な料理を、夜には骨のためにカルシウムを取り入れた軽い副菜を添えるといいでしょう。どれも消化に負担をかけず、食欲が落ちやすい高齢者でも無理なく続けられます」

 高齢者は噛む力や飲み込みの力が衰えている。やわらかさを重視することは言うまでもない。

 古谷氏が提案してくれた朝食が「ツナとトマトのやわらかラザニア風」だ。

「朝は体内時計がリセットされ、脳の働きや代謝が立ち上がる時間帯です。このタイミングでDHAやEPAのような魚の脂質をとることで、日中の気分や集中力が維持されやすく、血管や神経にも良い影響が期待できます。朝は脂質代謝が高まりやすく、利用効率が上がるともいわれています」

 魚を朝から調理するのが難しい家庭では、ツナ缶やサバ缶などを使うという方法が有効だ。簡単にDHA・EPAをしっかりとれ、保存性も高い。朝の食欲が落ちている高齢者でも、汁物や卵料理に少量加えるだけで必要な脂質を補えるという。

 1日の摂取量が同じでも、朝に魚由来の脂質をとっている高齢者ほど認知機能や歩行の安定が見られたという報告がある。人間の食欲は朝は弱く、夕方に強まりやすいため、「まずはひと口だけでも魚の脂質を朝に入れること」が鍵になる。

 それでも朝に十分食べられない場合は、午前中のおやつでつなげばよい。ヨーグルトや果物など喉を通りやすい食品を少量添えるだけで、朝~午前の“栄養ゾーン”が確保できる。特にタンパク質の多いギリシャヨーグルトは、高齢者にも使いやすい補助食品だという。少量でもタンパク質をとれ、甘味をつけなくても満足感がある。

「昼は体が最もよく働く時間帯です。消化や吸収がスムーズなので、魚や鶏肉、きのこ類、野菜を組み合わせた主菜を取り入れやすい。普段不足しがちなビタミン類も補いやすい時間です」

 夕方から夜にかけては胃腸の働きが落ちてくる。脂質の多い食事は胸やけや消化不良を招き、睡眠の質を下げることがある。

「夕食は根菜や葉物を中心に軽めにまとめるのがおすすめです。大根やニンジン、里芋などを使った煮物は噛みやすく、満足感も得られます。主菜は豆腐や白身魚など、やさしく消化しやすい食材で十分な方が多いのです」

 骨の健康の面では、夜にカルシウムを意識することは理にかなっている。骨代謝には日内リズムがあり、夜間は骨の分解が高まるという研究があるため、夕食時に小魚やしらす、牛乳、豆腐など“負担の少ないカルシウム源”を加えるとよい。酢を使った副菜は吸収を助け、夕食にも取り入れやすい。

「急激に無理矢理、量を増やす必要はありません。高齢者にとって大切なのは、時間帯に合わせて少しずつ栄養を入れていくこと。朝のももうひと口、夜のあとひとさじが、体調を支えてくれます」

 料理は、ただの栄養補給ではない。誰かのために作ること、誰かに作ってもらうこと。それは、心と心をつなぐ温かな行為だ。年末年始、久しぶりに再会する老親のために、たまには息子が手料理をふるまってみてはどうだろう。きっと、言葉以上の思いが伝わるはずだ。

【朝】ツナとトマトのやわらかラザニア風

 朝は生理的に食欲がわきづらく、量を食べられない人も多い。そのため、やわらかく、少量でもタンパク質がしっかりとれる料理が向いている。餃子の皮を使うことで、パスタよりも噛みやすく、食べやすい。

【材料】2人分
●ツナ缶(ノンオイル)…1缶
●トマト缶…1/2缶
●タマネギのみじん切り…大さじ2
●餃子の皮…8~10枚
●ピザ用チーズ…軽くひとつまみ
●オリーブ油…小さじ1
●砂糖…ひとつまみ

【作り方】
① タマネギを軽く炒め、ツナとトマト缶を加えて3~4分煮る。
② 耐熱皿に「餃子の皮→ソース→少量のチーズ」を重ねる。
③ オーブントースターで5~7分焼く。

 少量でタンパク質がとれ、トマトの旨味が食欲を引き出すため、高齢者の朝食に向く一皿である。

【朝おやつ】ギリシャヨーグルトのやさしい“追いタンパク”パフェ

 朝は食欲がわかず、どうしても料理を食べきれないことがある。その場合は、朝食から2~3時間以内に“補食”をとることで、朝~午前中のタンパク質量を確保できる。ギリシャヨーグルトは少量でもタンパク質量が多く、高齢者でも取り入れやすい。

【材料】1人分
●ギリシャヨーグルト…大さじ3~4
●バナナ(薄切り)…3~4枚
●きな粉…少量

【作り方】
① 器にヨーグルトを入れ、薄切りバナナを重ねる。
② きな粉をほんの少し振る。

 バナナの自然な甘みが食べやすさを引き上げ、ヨーグルトのタンパク質で“朝の不足分”を無理なく補える。

【夜】らすと豆腐のやわらか小鉢

 夜は胃腸が疲れやすく、脂質の多い料理は睡眠の質を下げやすい。そのため、消化に負担をかけず、少量でカルシウムが補える料理が向いている。しらすと豆腐を合わせると、噛む力や飲み込む力が弱い人でも食べやすい。

【材料】2人分
●しらす…大さじ2
●絹ごし豆腐…150g
●酢…小さじ1/2(カルシウム吸収を助ける)
●しょうゆ…ごく少量

【作り方】
① 小鉢に豆腐を食べやすく崩して入れる。
② しらすをのせ、酢としょうゆをほんの少し垂らす。

 しらすのカルシウムと豆腐のやわらかさが◎ 骨代謝が高まる夜の時間帯の栄養補給として理にかなう一品。

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