「モータープール」岸政彦著
「モータープール」岸政彦著
モータープールとは、関西地方で使われる呼称で駐車場を意味する。
とはいっても、本書は駐車場(数作品はあるが)の写真集ではない。
社会学者で作家でもある著者が、大阪の街を歩いて撮影したスナップ集だ。
あとがきが添えられているだけで、各作品の説明などは一切記されておらず、実は撮影地もすべてが大阪ではないのかもしれない。しかし、読者はモータープールというその書名から、大阪という街の空気を色濃く感じることだろう。
そしてページを開けば、その思いはいっそう強くなるはずだ。
十三の駅近くのスクランブル交差点、車が行き交う道路の向こう側にはアーケード商店街の入り口が見え、通りに面した建物にはお馴染みのファストフードの看板に交じって、地元のボウリング場などローカル色豊かな看板が色とりどりに掲げられている。
通りには陽光が差し込み、通りを行く人の姿も見えるが、全体から昼下がりのどこか気だるい雰囲気がにじみ出ている。
かと思えば、高層団地に囲まれた児童公園にレンズを向けた写真には、人影がない。多くの住人が暮らし、公園の主役である子どもたちも大勢いるはずなのに。
管理の行き届いた樹木に囲まれた公園のまん中に、大きな山型の遊具が存在感いっぱいに鎮座している。陽光に照らされた遊具は、まさにおろしたての新品のようで、人の気配が感じられないだけに、何やら別世界に来てしまったかのようだ。
逆に、川の土手から見下ろしたと思われる写真に写る長屋風のテラスハウスは、どれも同じ規格に見えるが2階のベランダの軒がサンルーム風に改良されているなど、住人たちがそれぞれの暮らしを楽しんでいる様子が見て取れる。住居の前の土手の下のスペースには家庭菜園もつくられ、見た目にはごちゃごちゃとした風景から活気が伝わってくる。
ほかにも、小さな住居が肩を寄せ合うように並んだ路地裏の風景がところどころに挟み込まれる。そうした路地は、家の前には植木鉢が並び、洗濯物が風になびいているなど、雑然としながらも、住人たちの息遣いが充満している。
愛猫家でもある著者は、そうした路地裏を歩く地域ネコの写真も忘れない。
府外在住の人にもお馴染みの道頓堀や太陽の塔などが写り込んだ写真もあるが、ほとんどは名もなき人の暮らしが垣間見える大阪の日常の風景である。
観光地をならってか、端午の節句に小さな川にロープを渡して数匹のこいのぼりを泳がせて楽しむなど、ささやかに生活を楽しむ人々の何げない日常の風景。
それこそが大阪らしい風景なのかもしれない。
そんな大阪に愛おしさを感じる著者の思いが籠もった作品集である。
(双子のライオン堂 2750円)



















