【愚か者の身分】戸籍売買の闇社会に生きる男たちが落ちた血まみれの地獄

公開日: 更新日:

本作で描かれた若者の悪業とその報いは決して絵空事ではない

 第30回釜山国際映画祭で北村と林、綾野の3人が最優秀俳優賞を受けただけあり、久しぶりに面白い邦画作品が完成した。面白さの理由はまず社会の底辺でうごめくタクヤとマモルの「カネをつかんで浮上したい」という渇望にある。2人は若くしてワーキングプア。生活保護を抜き取る怪しげな施設で出会い、戸籍売買に転じた。

 彼らがなりわいとする戸籍売買の仕組みも興味深い。若い女を使って貧しい男たちを口車に乗せ、戸籍を抜き取ってウン百万円の報酬を得る。騙す女と騙される男。カネ詰まりの男たちの生態はげんなりするほど惨めだ。

 さらに物語をスリリングにしているのは悪の組織から抜けるのは至難の技という現実だ。かつては反社会的組織といえばヤクザが中心だったが、今では関東連合のような半グレ組織が加わり、裏社会で荒稼ぎしている。こうした組織から抜けることは裏切りとなり、命の危険にさらされる。一度入ったら死ぬまで解放されないのだ。「生まれ変わるんだ。」という掛け声の裏には厳しい掟が潜み、本作を血なまぐさいサスペンスで締めくくることになる。

 話は横道にそれるが、現代社会においてこうした半グレ組織が運営する会社はさまざまな分野に広がっている。しかもそこで働く末端の社員は自分の勤務先が半グレ系であることを知らないという。

 先日、風俗記者から「AV女優の所属事務所にも半グレがけっこうある」と教えられた。

「半グレは資金を出して第三者にAV事務所を経営させる。事務所の代表者などわずかな幹部しか自社が半グレ系であることを知らない。そこに何も知らない新入社員が入社。撮影現場などで他社のベテランマネジャーから『おたくの会社は半グレ系だよ』と教えられ、慌てて辞めていく。だから半グレ系事務所は社員の定着率が悪い」

 なるほど。世の男性が楽しんでいるAV界にも半グレは潜伏し、美女を使ってごっそり稼いでいるわけだ。彼らの背後には暴力団が控え、上納金を吸い上げているのかもしれない。裏社会の仕組みは複雑怪奇だ。

 本作で描かれた若者の悪業とその報いは決して絵空事ではない。現実の闇社会ではこうした凄惨なドラマが繰り広げられているのだろう。一度悪に手を染めた愚か者が真っ当な社会に復帰するのは難しい。「愚か者の身分」は容易に良化できないのだ。(配給=THE SEVENショウゲート)

(文=森田健司)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    萩本欽一(11)ひとりぼっち寂しく貧乏飯を食べながら「先生も同級生もバカだな」と思うことにした

  2. 2

    不慮の事故で四肢が完全麻痺…BARBEE BOYSのKONTAが日刊ゲンダイに語っていた歌、家族、うつ病との闘病

  3. 3

    嵐が去る前に思い出す…あの頃の「松本潤」と「大野智」

  4. 4

    視聴率の取れない枠にハマった和久田麻由子アナの不運 与えられているのは「誰でもできる役割」のみ

  5. 5

    2度目の離婚に踏み切った吉川ひなの壮絶半生…最初の夫IZAMとは"ままごと婚"と揶揄され「宗教2世」も告白

  1. 6

    あのちゃん追い風だった女優業に暗雲の炎上!「嫌いな芸能人」発言で反撃される痛恨

  2. 7

    出口夏希の“男選び”がもたらす影響…伊藤健太郎との熱愛報道と旧ジャニファンが落ち込む意外

  3. 8

    伊藤健太郎とキンプリ永瀬廉で明暗クッキリ…「熱愛報道」出口夏希の足を引っ張りかねない“イメージ格差”

  4. 9

    仲間由紀恵46歳の“激変ふっくら姿”にネット騒然も…紆余曲折を経てたどり着いた現在地

  5. 10

    初期ビートルズの代名詞のような2曲の、まるっきり新しかったポップさ、キュートさ、叫びっぷり

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    2度目の離婚に踏み切った吉川ひなの壮絶半生…最初の夫IZAMとは"ままごと婚"と揶揄され「宗教2世」も告白

  2. 2

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  3. 3

    嶋基宏は一時期ノイローゼ状態になっていた...心ここにあらずで、魂が抜けた状態に

  4. 4

    伊藤健太郎とキンプリ永瀬廉で明暗クッキリ…「熱愛報道」出口夏希の足を引っ張りかねない“イメージ格差”

  5. 5

    なぜ「愛子天皇」ではダメなのか? 美智子さまが心情を吐露する出版物を準備中…と政界で話題

  1. 6

    嵐が去る前に思い出す…あの頃の「松本潤」と「大野智」

  2. 7

    視聴率の取れない枠にハマった和久田麻由子アナの不運 与えられているのは「誰でもできる役割」のみ

  3. 8

    不慮の事故で四肢が完全麻痺…BARBEE BOYSのKONTAが日刊ゲンダイに語っていた歌、家族、うつ病との闘病

  4. 9

    居酒屋倒産が過去最多ペース 客離れの背景にある「飲み放題5000円」の壁

  5. 10

    巨人“育成の星”のアクシデントに阿部監督は顔面硬直、原辰徳氏は絶句…桑田真澄氏の懸念が現実に