著者のコラム一覧
奥野修司ノンフィクション作家

▽おくの・しゅうじ 1948年、大阪府生まれ。「ナツコ 沖縄密貿易の女王」で講談社ノンフィクション賞(05年)、大宅壮一ノンフィクション賞(06年)を受賞。食べ物と健康に関しても精力的に取材を続け、近著に「本当は危ない国産食品 」(新潮新書)がある。

10分も記憶を維持できない人が昨日のことを覚えていた

公開日: 更新日:

 もし山崎さんが、母親と折り合いが悪くなっていたり、介護がルーティンになって、2人に親子の会話がなく、息子なのにヘルパーのような存在になっていたら、介護されても母親から「息子」という認識は消えていくだろう。あるいは障害によって、若かった頃の息子の記憶が現れ、中年になった山崎さんを認識できないのかもしれない。

 それでもいいのではないか。忘れたからといって「なんで俺のことを忘れる!」と指摘すれば、山崎さんは「怖い人」になって、母と子の関係性はますます薄くなる。

 反対に、息子の顔を忘れても、やさしく声をかけていれば、少なくとも温かみは伝わって「身近で大切な人」と認識してもらえるはずである。

 その後、山崎さんは居直り、「息子の雄さんに似てるねぇ」と言われると、「おれも雄二って名前ですから」と笑い返しているそうである。

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