著者のコラム一覧
奥野修司ノンフィクション作家

▽おくの・しゅうじ 1948年、大阪府生まれ。「ナツコ 沖縄密貿易の女王」で講談社ノンフィクション賞(05年)、大宅壮一ノンフィクション賞(06年)を受賞。食べ物と健康に関しても精力的に取材を続け、近著に「本当は危ない国産食品 」(新潮新書)がある。

10分も記憶を維持できない人が昨日のことを覚えていた

公開日: 更新日:

「母さん、とうとう俺の顔も忘れたんです。介護していてもまるでアカの他人ですよ」

 山崎雄二さん(仮名)は言う。認知症になった母親を介護していたが、最近は「あなた、誰?」とか、親戚の叔父さんに間違われるという。

 その人が誰かわからなくなることを「見当識障害」という。時間や場所がわからなくなることもそうだ。でも、「わからなくなる」ということはどういうことだろう。

 数年前のことである。記憶が10分も維持できない認知症の婦人がいた。子供時代を過ごした実家が好きだというので、施設の責任者と相談して、みんなで実家へ遊びに行くことになった。そこで半日ほど遊んで帰ったのだが、翌朝、その婦人に挨拶すると、「昨日は楽しかったねぇ」と言われたのだ。10分も記憶を維持できない人が、昨日のことを覚えていたのである。

 認知症になるとすぐに忘れるというイメージがあるが、忘れたのではなく、記憶しなかった(できなかった)のではないか。私たちでも重要でないことは記憶しないのと同じだ。先ほどの婦人が覚えていたのは、彼女にとってそれが重要な体験だったからだろう。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    カーリング女子フォルティウス快進撃の裏にロコ・ソラーレからの恩恵 ミラノ五輪世界最終予選5連勝

  2. 2

    南原清隆「ヒルナンデス」終了報道で心配される“失業危機”…内村光良との不仲説の真相は?

  3. 3

    契約最終年の阿部巨人に大重圧…至上命令のV奪回は「ミスターのために」、松井秀喜監督誕生が既成事実化

  4. 4

    「対外試合禁止期間」に見直しの声があっても、私は気に入っているんです

  5. 5

    高市政権「調整役」不在でお手上げ状態…国会会期末迫るも法案審議グダグダの異例展開

  1. 6

    円満か?反旗か? 巨人オコエ電撃退団の舞台裏

  2. 7

    不慮の事故で四肢が完全麻痺…BARBEE BOYSのKONTAが日刊ゲンダイに語っていた歌、家族、うつ病との闘病

  3. 8

    箱根駅伝3連覇へ私が「手応え十分」と言える理由…青学大駅伝部の走りに期待して下さい!

  4. 9

    「日中戦争」5割弱が賛成 共同通信世論調査に心底、仰天…タガが外れた国の命運

  5. 10

    近藤真彦「合宿所」の思い出&武勇伝披露がブーメラン! 性加害の巣窟だったのに…「いつか話す」もスルー